台湾CFC税制(受控外國企業制度):留保金課税と受取配当益金不算入

台湾CFC税制(受控外國企業制度):留保金課税と受取配当益金不算入

2023年(民国112年)、台湾の国際税務環境は大きな転換点を迎えました。台湾企業が海外の低税率国(タックスヘイブン)に設立した子会社に利益を留保していた場合、従来は実際に配当が行われるまで台湾での課税は行われませんでした。しかし、OECDが2015年10月に公表したBEPS行動計画3(効果的なCFC税制の構築)の最終報告書の勧告に対応するため、台湾の立法院は2016年に所得税法第43条の3を増訂・公布し、行政院は2021年1月14日付け院台財字第1100041879号令をもって、営利事業CFC制度を2023年度(民国112年度)から施行することを決定しました。

この制度は、経済実態のない海外子会社の利益を、配当の有無にかかわらず台湾親会社の所得とみなして課税するものです。台湾に進出している日本企業にとって、台湾子会社がさらに第三国(香港やシンガポールなど)に持つ子会社がこのCFC税制の対象となる可能性があり、グループ全体の税務戦略に深刻な影響を及ぼします。本記事では、2023年施行および同年12月の修正を含む最新の法令に基づき、制度の詳細、日本法との違い、企業が取るべき対策について解説します。

台湾版CFC税制の導入背景と概要

台湾のCFC税制は、企業が租税回避地(タックスヘイブン)にペーパーカンパニーを設立し、利益を溜め込むことで台湾での課税を逃れる行為を防止することを目的としています。所得税法第43条の3に基づき導入された制度により、台湾の営利事業(法人)が低税率国・地域に関係会社を保有し、かつ支配力を有している場合、海外関係会社の利益は台湾親会社の当年度の所得に合算され、課税対象となります。

対象となる低税率国・地域とは、法人税率が台湾の法人税率(20%)の70%以下、すなわち14%以下の国、または国外源泉所得に対して課税を行わない(あるいは送金時のみ課税する)国・地域を指します。BVI(英領ヴァージン諸島)やケイマン諸島などの伝統的なタックスヘイブンに加え、香港やシンガポール、マレーシアなども、テリトリアル課税制度から対象となる可能性が高く、日本企業のサプライチェーンに広く影響します。

台湾CFC(受控外國企業)の判定基準と適用対象

台湾CFC(受控外國企業)の判定基準と適用対象

海外法人がCFCと認定されるか否かは、支配関係の有無によって決まります。支配関係には、形式的支配と実質的支配の二つの基準が存在します。形式的支配基準では、台湾の営利事業およびその関係者が、低税率国にある外国法人の株式または資本金の50%以上を直接または間接に保有している場合、CFCとみなされます。持株比率の計算において、配偶者や二親等以内の親族などの保有分も合算される点に注意が必要です。

実質的支配基準では、持株比率が50%未満であっても、台湾の営利事業が外国法人の人事、財務、運営方針に対して重大な影響力(Substantial Influence)を有している場合、CFCとして認定されます。

台湾CFC税制:2023年(民国112年)12月施行の重要改正点

制度開始初年度となる2023年(民国112年)の年末、財政部は営利事業認列受控外國企業所得適用辦法(営利事業によるCFC所得認識適用弁法)を修正しました。実務上の混乱を避けるため、極めて重要な変更が含まれています。

金融商品評価損益の実現主義への移行

当初のルールでは、CFCが保有する株式やデリバティブなどの金融商品について、期末の時価評価による評価益(未実現利益)も課税対象とされていました。これはキャッシュインのない利益に対する課税(Dry Income Tax)となり、納税者にとって過酷な負担でした。修正により、金融商品の公正価値評価損益については、実際に売却または処分して利益が実現した年度まで、課税所得への算入を繰り延べることが選択できるようになりました。

信託を用いた回避策の封じ込め

信託(Trust)を利用して形式的な持株比率を下げる租税回避スキームに対処するため、関係者の範囲が拡大されました。信託財産が低税率国の関係企業株式である場合、委託者、受託者、受益者は互いに関係者とみなされます。信託スキームを通じたCFC認定の回避は事実上不可能となりました。

台湾CFC税制:実質的活動基準による適用除外と具体的要件

台湾CFC税制:実質的活動基準による適用除外と具体的要件

全てのCFCが直ちに課税されるわけではありません。台湾政府は、正当な経済活動を行っている海外子会社を保護するため、一定の要件を満たす場合の適用除外(セーフハーバー)規定を設けています。

適用除外の類型

適用除外の類型具体的要件
実質的活動基準以下の3つの条件を全て満たす必要があります。①設立登記地に固定された事業場所(オフィス等)があること②従業員を雇用し、現地で実際に業務を行っていること③当年度の消極的所得(受動的所得)の割合が総収入の10%未満であること
微量基準個別のCFCの当年度盈餘(利益)が新台湾ドル700万元以下である場合。ただし、台湾親会社が保有する全CFCの利益合計が700万元を超える場合は適用されません。

消極的所得とは、投資収益、配当、利子、ロイヤリティ、賃貸収入、資産売却益などを指します。ただし、銀行や保険業などが本業から得る収益や、自社開発した無形資産からの収益には例外規定が設けられています。

実質的活動要件の厳格な運用事例

形式的にオフィスと従業員がいれば良いという安易な解釈は禁物です。財政部北区国税局が公表した実際の否認事例は、当局の調査がいかに実質を重視しているかを示しています。台湾企業甲社は、子会社CFC-A社について固定した事業場所があり、従業員も雇用しているとして適用除外を申請しました。しかし、国税局の調査により以下の事実が発覚し、約1億2,000万台湾ドルの追徴課税が課されました。

第一に、オフィスとして申告された場所の年間賃料が約2万台湾ドルと極端に低額であり、さらに水道光熱費の支払い実績が一切ありませんでした。物理的な事業活動の拠点が実質的に機能していないと判断されました。第二に、雇用契約書は存在していましたが、従業員は海外市場の営業担当であり、CFCの登記地には駐在せず、別の場所で活動していました。現地での業務遂行という要件を満たさないと判定されました。この判例から、オフィス契約だけでなく、電気・水道の使用実績や、従業員が物理的にその国に滞在していることを証明する出入国記録などが、税務調査において決定的な証拠となることがわかります。

参考:財政部北區國稅局

台湾CFC税制と日本のタックスヘイブン対策税制との比較

日本の経営者にとって馴染み深い日本のタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)と台湾のCFC税制には、類似点がある一方で、決定的な違いも存在します。

比較項目日本(タックスヘイブン対策税制)台湾(CFC税制)
トリガー税率租税負担割合が27%未満(詳細な判定基準あり)法定税率が台湾の70%(14%)以下
受取配当の取扱外国子会社配当益金不算入制度あり(原則95%非課税)益金不算入制度なし。CFC所得として合算課税されるか、配当受取時に課税されるかのいずれか
二重課税調整外国税額控除制度あり外国税額控除制度あり(繰越期間10年)

最大の違いは外国子会社配当益金不算入制度の有無です。日本では、外国子会社から受け取る配当は原則として益金不算入(非課税)となります。一方、台湾にはこれに相当する制度がなく、海外からの配当は原則として課税対象です。CFC税制が適用されると、配当を受け取る前の段階でみなし配当として課税され、その後実際に配当を受け取った時点では課税されない(二重課税を防ぐ)仕組みになります。台湾ではキャッシュが入ってくる前に税金を払うという資金繰り上の負担が発生する点が、日本法との大きな違いと言えます。

台湾CFC税制の申告実務とペナルティ

CFC税制の適用対象となる場合、確定申告時に以下の書類を提出する必要があります。

  • CFCの財務諸表(原則として会計士の監査済み)
  • 関係者を含む持株構造図
  • 過去10年間の欠損金明細表(欠損金控除を受ける場合)
  • 現地での納税証明書(外国税額控除を受ける場合)

CFC所在国で監査義務がない場合でも、台湾での申告のために監査を受ける必要が生じる点は、管理コストの増加要因となります。申告漏れや過少申告があった場合、所得税法第110条に基づき、申告済みで漏報・短報があった場合は漏税額の2倍以下、申告自体を行わず税務当局の調査により発覚した場合は3倍以下の罰鍰が科される可能性があります。故意による隠蔽とみなされれば、さらに重いペナルティが課されるリスクもあります。

まとめ

2023年(民国112年)に本格施行された台湾のCFC税制は、台湾に拠点を置く日本企業の税務コンプライアンスに重大な影響を与えます。香港やシンガポールなどの軽課税国を経由したサプライチェーンを持つ企業は、実質的活動基準を満たしているかの再点検が急務です。形式的な書類整備だけでなく、オフィスの使用実績や従業員の勤務実態など、デジタル証拠を含む実態の証明が求められます。

モノリス法律事務所は、ITやテクノロジーに関連する法務に強みを持ち、台湾の弁護士資格を有する専門家も所属しています。本記事を共同監修した台湾の椽智商務科技法律事務所と連携し、日台間の法制度の違いを踏まえた上で、CFC該否判定から実質的活動の構築支援、税務調査への対応まで、日本企業の台湾ビジネスを包括的にサポートすることが可能です。

監修

河瀬 季

Toki Kawase

IT企業経営の経験を持つエンジニア出身の弁護士。東大院修了後、モノリス法律事務所を開設。上場企業からスタートアップまで顧問弁護士やCLOとして経営を支援する。特に台湾法務に精通し、専門チームを率いて現地法人設立から労務、知財戦略分野で日本企業の台湾進出を多角的にサポートしている。

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