台湾駐在員のビザ申請完全ガイド:就労許可と居留証の取得手続き
台湾は、その地理的な近接性と歴史的な背景から、日本企業にとって最も重要な海外市場の一つです。多くの日本企業が台湾に進出し、現地法人や支店を拠点としてビジネスを展開しています。しかし台湾における外国人の就労に関する法制度は、日本とは異なる独自の構造を有しています。その理解不足が思わぬ法務リスクや駐在員の赴任遅延を招くケースが散見されます。
特に2018年の外国専門人材の招聘及び雇用に関する法律(外国専業人才延攬及雇用法)の施行以降、台湾政府は高度人材の獲得に向けて矢継ぎ早に規制緩和を行っています。2025年に可決され2026年1月1日から施行された最新の改正法に至るまで、その制度は流動的かつ複雑化しています。
本記事では、台湾への駐在員派遣に必須となる就労許可と外僑居留証(ARC)の取得手続き、および最新の法改正に伴う留意点について、実務的な観点から網羅的にお伝えします。
目次
台湾における外国人就労管理の法的構造と日本法との相違
台湾において外国人が適法に就労し滞在するためには、労働行政と移民行政という二つの異なる行政管轄を跨ぐ手続きを経る必要があります。この構造は、法務省出入国在留管理庁が一元的に在留資格の許認可を行う日本の制度とは大きく異なります。
労働行政と移民行政の二元管理体制
台湾における外国人就労の法的根拠は、主に就業服務法(雇用サービス法)および外国専門人材の招聘及び雇用に関する法律(以下、外国人材法)にあります。日本企業が駐在員を派遣する場合、まず労働部に対して就労許可の申請を行い、これに合格する必要があります。就労許可はあくまで台湾の労働市場にアクセスする権利を行政が認めるものであり、これ単体では台湾に滞在する権利は発生しません。
就労許可を取得した後、別途、内政部移民署に対して外僑居留証(Alien Resident Certificate, ARC)を申請し取得することで初めて滞在する権利が確定します。台湾では働く権利(労働部管轄)と住む権利(移民署管轄)が明確に分離されており、両者がセットになって初めて、日本でいう就労ビザとしての機能が完結します。
日本の在留資格制度では、技術・人文知識・国際業務といった在留資格そのものに就労の可否と範囲が内包されています。台湾ではこの二つが別個の行政処分として存在している点を、まずは理解する必要があります。
2026年施行の改正外国人材法による変化
台湾政府は近年、少子高齢化と国際的な人材獲得競争に対応するため、外国人材法を累次改正し規制緩和を進めています。特に2026年1月1日から施行された改正法は、従来の就労許可要件を大幅に見直すものであり、日本企業の人事戦略にも直接的な影響を与えます。
従来、一般的な専門職として外国人が就労許可を得るためには、学士号取得者に2年間の実務経験が必須とされていました。しかし今回の改正により、教育部が定める世界トップ1500大学の卒業生については、この実務経験要件が免除されることとなりました。2021年の改正でトップ500大学まで緩和されていたものが、さらに大幅に拡大されました。これにより、日本の多くの大学を卒業した新卒社員を実務経験を待たずに台湾現地法人へ即戦力として派遣する道が大きく広がりました。
さらに画期的なのは、世界トップ200大学の卒業生に対して新設された個人就労許可制度です。従来の就労許可は原則として特定の雇用主に紐付くものであり、雇用契約の存在が前提でした。しかしこの新制度では、雇用主が決まっていない状態でも個人として就労許可を申請・取得することが可能となります。これは日本の特定活動(就職活動)等とは異なり、就労そのものを許可する強力な権利です。優秀な若手人材が台湾で自由に就職先を探したり、フリーランスとして活動したりすることを可能にします。
台湾で外国人を雇用する企業側の適格性要件

台湾で外国人を雇用するためには、雇用される本人だけでなく、雇用する企業も一定の規模要件を満たしている必要があります。これは実体のないペーパーカンパニーによる不法就労の助長を防ぐための措置です。
設立年数による要件の分岐
企業の適格性は、設立からの経過年数によって求められる基準が異なります。設立から1年未満の企業の場合、売上実績を作ることが難しいため資本金の規模が審査対象となります。現地法人または分公司(支店)の場合、実収資本金または台湾国内での運営資金が500万台湾元(約2,300万円)以上であることが求められます。この金額は中小規模のスタートアップや小規模な拠点展開を考えている日本企業にとっては決して低いハードルではありません。
設立から1年以上経過している企業の場合、資本金の額ではなく事業の実績が問われます。直近1年間の売上高が1,000万台湾元(約4,600万円)以上、あるいは直近3年間の平均売上高が1,000万台湾元以上であることが要件となります。
駐在員事務所(代表処)の特例と限界
日本企業が本格的な進出の前に、市場調査や連絡業務を行うために駐在員事務所を設置するケースがあります。駐在員事務所は営業活動を行うことができないため、売上高という概念が存在しません。そのため駐在員事務所が外国人を雇用する場合、上記のような売上要件は適用されず、代わりに業務の実績や雇用の必要性を個別に疎明する必要があります。
一般的に駐在員事務所の代表者として1名の就労許可を取得することは比較的容易です。しかし代表者以外のスタッフを日本から派遣しようとする場合、審査のハードルは格段に上がります。労働部は営業活動を行わない事務所になぜ複数の外国人スタッフが必要なのかという観点から厳格な審査を行います。実務上は複数の駐在員を派遣する計画があるならば、駐在員事務所ではなく現地法人または分公司の形態をとることが推奨されます。
台湾の就労許可における外国人材本人の要件
就業服務法第46条第1項第1号から第6号に規定される専門的または技術的業務に従事する場合、申請者本人には学歴・職歴・給与水準に関する要件が課されます。
学歴と職歴のマトリクス
原則として申請者は大学卒業(学士号)以上の学歴を有している必要があります。博士号または修士号を保有している場合、実務経験は一切問われません。新卒であっても修士号を持っていれば即座に就労許可の申請が可能です。
学士号のみの場合、原則として卒業後2年以上の関連する実務経験が必要となります。ただし前述の通り、2026年以降は世界トップ1500大学の卒業生であればこの実務経験要件が免除されます。日本の大学の多くがこのリストに含まれることが予想されますが、具体的なリストは教育部のウェブサイトで確認する必要があります。
学歴がない場合でも、5年以上の関連する実務経験があり、かつ独創的な見解や特殊な技能を有していると認められる場合は例外的に就労許可が下りる可能性があります。ただしその審査は非常に厳格であり、高い専門性を証明する書類(特許、論文、受賞歴など)の提出が不可欠です。
最低給与基準の厳格な適用
台湾政府は、外国人労働者が安価な労働力として国内労働者の雇用を圧迫することを防ぐため、専門職の外国人に対して最低給与基準を設定しています。執筆時点の基準額は月額平均47,971台湾元(約22万円)です。
この金額は基本給だけでなく固定的な手当を含んだ総支給額で判断されますが、残業代や変動するボーナスは含まれません。雇用契約書にはこの金額以上の給与を明記する必要があり、実際の支給額がこれを下回った場合は就労許可の更新が拒否されるリスクがあります。企業内転勤や特定の高度専門人材については、この給与要件が緩和されたり、逆に管理職としてより高い水準が求められたりするケースもあります。
台湾の就業ゴールドカード:高度人材への戦略的選択肢

2018年の外国人材法によって創設された就業ゴールドカードは、従来の就労ビザ制度の枠組みを超えた、極めて柔軟性の高い在留資格です。日本企業が経営幹部や高度な技術者を派遣する場合、通常の就労許可ではなくこのゴールドカードの取得を検討すべきでしょう。
4-in-1カードの機能とメリット
就業ゴールドカードは、就労許可、居留ビザ、外僑居留証(ARC)、重入国許可の4つの機能が1枚のカードに統合されたものです。最大の特徴はこれがオープンパーミットであるという点です。
通常の就労許可が特定の雇用主に紐付いているのに対し、ゴールドカードは個人に付与されます。ゴールドカード保持者は事前の許可変更手続きを経ることなく、自由に転職したり複数の企業で兼業したり、あるいは法人を設立して自ら代表となったりすることが可能です。これは日本の高度専門職2号に近い自由度を持ちながら、取得当初からその権利が与えられる点で優れています。
申請資格と税制優遇
ゴールドカードは、科学技術、経済、教育、文化芸術、スポーツ、金融、法律、建築設計、国防、デジタルの10分野における特定専門人材を対象としています。多くのビジネスパーソンにとって関係するのは経済分野であり、その主要な要件の一つに直近の月収が16万台湾元(約75万円)以上であることが挙げられます。
税制面での優遇も大きな魅力です。ゴールドカード保持者が初めて台湾で就労する場合、年間給与所得が300万台湾元を超える部分について、その50%が課税所得から控除されます(最初の5年間)。台湾の所得税最高税率は40%ですが、この優遇措置により実効税率を大幅に引き下げることが可能となり、高所得層の駐在員にとっては非常に大きなメリットとなります。
台湾の就労許可申請手続きの実務詳細
ここからは通常の就労許可(専門的・技術的業務)を取得するための具体的なプロセスを解説します。
必要書類の収集と認証
申請には、申請書(オンライン作成)、雇用契約書の写し(職務内容、期間、給与額47,971台湾元以上が明記されたもの)、申請者のパスポートの写し(残存期間6ヶ月以上)、卒業証明書の写し、実務経験証明書、企業の登記証明書および直近の納税証明書が必要となります。
ここで最大の難関となるのが、日本で発行された文書の認証です。台湾はハーグ条約(アポスティーユ条約)に非加盟であるため、日本の公文書や私文書を台湾の公的手続きで使用する場合、原則として台北駐日経済文化代表処(TECO)による認証を受ける必要があります。
近年の規制緩和により、特定の国や大学の学位については認証が免除されるケースも増えています。しかし実務上は認証が必要であると想定して準備を進めるのが安全です。特に私文書である在職証明書などは、日本の公証役場での認証、日本外務省の公印確認、そしてTECOでの認証という3段階の手続きが必要になる場合があります。これに数週間の時間を要することも珍しくありません。
オンライン申請から居留証取得まで
書類が整ったら、労働部のオンライン申請システムEZ Work Taiwanを通じて申請を行います。現在はほぼ全ての手続きがオンラインで完結します。雇用主のアカウントを作成し、必要な情報を入力の上、スキャンした書類をアップロードします。審査期間は書類に不備がなければ通常7営業日から12営業日程度です。許可が下りると電子公文書として就労許可函が発行されます。就労許可函を取得したら、本人が日本の台北駐日経済文化代表処にて居留ビザを申請します。この際、パスポート原本、写真、就労許可函の写し、健康診断書などが必要となります。
居留ビザを取得して台湾に入国した後、15日以内に居住地を管轄する移民署のサービスステーションに出頭し、外僑居留証への切り替え申請を行います。この手続きを怠ると罰金が科されるだけでなく、最悪の場合はビザが取り消される可能性もあります。入国後は速やかに手続きを行う必要があります。ARCは約2週間程度でカードとして発行されます。
台湾のビザ申請における健康診断の要件

台湾のビザ申請において、日本人が特に注意すべき点が健康診断です。一般的に日本を含む特定の先進国の国民が専門職として就労する場合、就労許可申請段階での健康診断書の提出は免除されています。しかし、居留ビザの申請時や、職種(教育関連など)によっては健康診断書が求められる場合があります。
健康診断には胸部X線検査(結核)、梅毒血清検査、麻疹・風疹抗体検査などが含まれます。重要なのは、この診断書は台湾衛生福利部が指定する病院で発行されたものでなければならず、かつ発行から3ヶ月以内のものが有効とされる点です。日本国内にも指定病院は存在しますが、検査項目や様式の不備による再提出のリスクを避けるため、多くの場合は台湾に入国後、現地の指定病院で受診する方法がとられます。ノービザや停留ビザで入国し、その結果をもって居留ビザやARCの申請を行います。
台湾における居留証の更新・変更と転職時のリスク
ARCの有効期間は原則として就労許可の期間(通常1年から3年)と同一です。更新手続きは期間満了の4ヶ月前から申請可能です。
転職と隙間期間の問題
日本法との大きな違いとして、台湾の通常の就労許可は雇用主に紐付いているため、転職する場合は新しい雇用主が改めて就労許可を申請し直す必要があります。ここで問題となるのが、前職の退職から新しい就労許可が下りるまでの隙間期間です。
退職と同時に前職の就労許可は失効し、それに伴いARCも無効化されるのが原則です。しかし外国人材法に基づき、求職活動を行うための期間としてARCの効力を6ヶ月間延長する求職延長の申請が可能です。この申請を行わずに退職日が過ぎてしまうとオーバーステイとなり、罰金や一定期間の入国禁止処分を受けることになります。退職日が確定した時点で速やかに移民署にて延長手続きを行うことが不可欠です。
虚偽記載と許可取消のリスク
台湾の行政手続きにおいて、虚偽の申告は極めて重い処分対象となります。就業服務法第54条および第72条に基づき、提出書類に虚偽の記載があった場合、就労許可は即座に取り消されます。台北高等行政法院の判決においても、申請者が意図的に経歴を詐称した場合はもちろんのこと、雇用主が実体のない事業計画に基づいて申請を行った場合などでも虚偽記載として厳しく断罪される傾向にあります。
一度虚偽記載による取消の記録が残ると、将来にわたって台湾でのビザ取得が極めて困難になります。申請書類の内容は事実に基づいて正確に記載し、疑義が生じるような曖昧な表現は避けるべきです。
台湾と日本の就労ビザ制度の比較
最後に台湾の制度と日本の制度の主な違いを整理します。許認可の構造について、日本は法務省(入管)が一元管理しますが、台湾は労働部(就労許可)と移民署(居留証)の二段階承認プロセスです。転職の自由度について、日本の就労ビザは在留期限まで有効で転職も比較的自由ですが、台湾の通常就労許可は退職と同時に失効します。手続きの空白期間が生じないよう厳密な管理が必要です。
家族の就労について、日本の家族滞在ビザは資格外活動許可でパートタイム就労が可能ですが、台湾の帯同家族ビザは原則として就労不可です。高度人材優遇について、台湾の就業ゴールドカードは日本の高度専門職ビザと比較しても、転職の自由度や税制メリットの面で非常に強力なインセンティブが付与されています。
まとめ
台湾における駐在員のビザ申請は、2026年の法改正により、特に若手人材やトップ大学卒業生にとっての門戸が大きく開かれました。しかし労働部と移民署にまたがる二重の審査プロセス、厳格な最低給与基準、そして雇用主変更時の手続きの厳密さなど、日本法とは異なる独自の法的リスクが存在します。
特に書類の不備や手続きの遅延は、駐在員の赴任スケジュールを直撃し、ビジネスの立ち上げに重大な支障をきたす可能性があります。昨今の地政学的な状況も踏まえ、コンプライアンスの遵守は以前にも増して重要となっています。
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