日台租税協定の活用:配当・利子・ロイヤリティの源泉税軽減ガイド

日台租税協定の活用:配当・利子・ロイヤリティの源泉税軽減ガイド

日本と台湾の経済関係は、従来のハードウェア製造を中心としたサプライチェーン連携から、SaaS、AI、IoT、フィンテックといったソフトウェア・サービス領域へと急速に重心を移しています。TSMCの熊本進出に象徴されるように、日台間の資本移動、技術移転、人材交流はかつてない密度で進行しています。それに伴い、クロスボーダー取引における税務コストの管理が経営戦略上の最重要課題の一つとなりました。

国境を越えるデジタル取引においては、課税の根拠となる恒久的施設(PE)の認定が問題となります。支払対価がロイヤリティにあたるのか事業所得にあたるのかを巡り、税務当局と納税者との間で見解の相違が生じやすい領域です。台湾市場へ進出する日本のIT企業にとって、現地で課される源泉徴収税は売上総利益を直接圧迫する要因となります。

本記事では、台湾税制の最新動向やソフトウェア課税に関する重要判例、日台租税協定の活用スキームを実務的な観点から詳しく説明します。

台湾における日台租税協定の法的構造と適用範囲

日本と台湾の間には1972年以降、正式な国交が存在しません。そのため通常の国家間で締結される租税条約という形式を取ることができませんでした。しかし実質的な経済関係の深化に伴い、二重課税の排除と脱税防止の必要性が高まりました。2015年11月に日台租税協定が署名され、2017年1月1日より適用が開始されています。正式名称は「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との間の取決め」です。

この協定は、日本側の公益財団法人日本台湾交流協会と、台湾側の台湾日本関係協会という二つの民間窓口機関の間で締結された、いわゆる「民間取決め」という形式を採っています。もっとも、その効力は単なる紳士協定にとどまるものではありません。日本側では、租税に関する関係法令および国税当局の取扱いにより当該取決めが実施されており、台湾側においても、財政部の行政解釈および税務実務を通じて、実質的に租税条約と同様の取扱いが行われています。その結果、日台間の所得課税については、通常の租税条約と同等の法的安定性と予測可能性が確保されています。

本協定が対象とする税目は、日台双方の所得に対する租税です。日本では所得税、法人税、住民税などが対象となります。台湾では営利事業所得税(法人税に相当)、総合所得税(所得税に相当)、そして台湾特有の所得基本税額(AMT)も対象です。

人的適用範囲としては、日本または台湾の居住者に適用されます。IT企業の場合、日本に本店を置く法人が台湾企業から支払いを受けるケースや、台湾子会社が日本親会社へ支払いを行うケースなどが該当します。

台湾における配当・利子・ロイヤリティの源泉税率

台湾における配当・利子・ロイヤリティの源泉税率

台湾の国内法に基づく標準税率と、日台租税協定を適用した場合の軽減税率の差異は、企業のキャッシュフローと最終利益に大きな影響を与えます。日台租税協定を適切に活用することで、源泉税率を大幅に引き下げることが可能です。

日本企業(非居住者)が台湾から支払いを受ける際の主な所得区分ごとの税率は以下の通りです。配当については台湾国内法で21%の源泉税が課されますが、協定適用で10%に軽減されます。利子については国内法で20%が標準のところ、協定適用で10%となります。ロイヤリティについても国内法20%が協定適用で10%に軽減されます。

配当所得の特徴

配当所得については、多くの租税条約では軽減税率の適用に議決権の25%以上を6ヶ月以上保有することといった要件が課されます。日台租税協定においてはこのような持分比率要件が存在しません。台湾のスタートアップ企業へマイノリティ出資を行う日本のベンチャーキャピタルや事業会社にとって極めて有利な条件です。数パーセントの出資であっても協定の適用申請を行えば10%の税率が適用されます。

利子所得と資金調達に関する税務上の留意点

利子所得は、ITスタートアップが台湾子会社を設立する際に、親会社からの貸付(いわゆる親子ローン)の形で資金を供給する場合などに問題となります。台湾の国内法では、外国法人が受領する貸付金利子に対して原則として20%の源泉徴収税が課されますが、日台租税協定を適用することで、その税率は10%に軽減されます。

もっとも、台湾の税務実務では、資本構成の合理性が重視されており、負債による資金調達が過度であると判断される場合には、支払利息の全部または一部について損金算入が否認されるリスクがあります。したがって、利子に係る源泉税率の軽減のみならず、出資と貸付のバランスを含めた資金調達スキーム全体について、台湾側の税務上の取扱いを踏まえた検討が不可欠です。

ロイヤリティの範囲

ロイヤリティについては、特許権、商標権、著作権、秘密処方(ノウハウ)の使用料が対象です。IT企業の場合、ソフトウェアのライセンス料がこの著作権の使用に含まれるか、あるいは物品の販売とみなされるかが重要な論点となります。

台湾におけるソフトウェア所得の法的性質と課税区分

IT企業が台湾の顧客から受け取る対価は、その法的・経済的実質によってロイヤリティ(協定税率10%)事業所得(台湾に恒久的施設がなければ0%)かに分類されます。この区分を誤ることは税務リスクの最大要因となります。台湾財政部は2007年に発出した解釈指針(台財税字第09604520730号令)において、外国企業が販売するソフトウェアの課税関係に関する基準を示しています。これが実務の基礎となっています。

標準化ソフトウェアの取扱い

標準化ソフトウェアとは、不特定多数に向けた完成品としてのソフトウェアを指します。パッケージソフトやダウンロード販売などが該当し、改変権や複製権の譲渡を伴わないものです。法的性質としては物品の販売に分類されます。日本企業が台湾国内に支店やサーバー等の恒久的施設(PE)を有していなければ、その所得は事業所得に該当します。日台租税協定第7条に基づき台湾での課税は免除されます。10%の軽減税率申請ではなく、非課税・免税の主張を行うことになります。

カスタマイズ・ソフトウェアの取扱い

カスタマイズ・ソフトウェアとは、顧客のニーズに応じたプログラム修正・開発を行うものです。ソースコード提供や複製権・改変権等の許諾を含む場合も該当します。法的性質としては権利の使用対価に分類され、ロイヤリティとして軽減税率10%が適用されます。

日本の税務実務では、単なるソフトウェアの使用許諾は事業所得として扱われることが一般的です。一方、台湾の税務当局は、ソフトウェアの使用を産業上の設備の使用やノウハウの提供と広義に解釈する傾向があります。ロイヤリティ課税を求める姿勢が日本よりも強いため注意が必要です。

台湾におけるソフトウェアにおける課税区分の判断基準

台湾最高行政裁判所の判例と実務への影響

台湾の税務リスクを理解する上で、最高行政裁判所の司法判断を知ることは不可欠です。近年、ソフトウェアや技術導入契約における課税区分を巡り、契約の実質を重視する厳しい判断が下されています。

最高行政裁判所判決(108年度判字第165号等)では、技術導入対価の免税適用における使用地の解釈や、対価の法的性質が争われました。裁判所は、契約書が形式的に売買契約となっていても、実態として高度な技術サポートやカスタマイズ、あるいは秘密情報の開示が含まれている場合、ノウハウの対価または技術サービス料として源泉徴収の対象となると判断する傾向にあります。

別の事例では、台湾企業が外国企業から特許ライセンスを受け、その技術を用いて中国の子会社で製造を行っていたケースがありました。裁判所は台湾国内での技術使用の実態が希薄であるとして免税措置の適用を否認しました。

これらの判例から得られる教訓は、契約書の記載内容とビジネスの実態を一致させることの重要性です。一つの契約書でハードウェア販売、標準ソフトウェア使用許諾、カスタマイズ開発、保守サポートをまとめて契約している場合があります。税務当局は全額をロイヤリティとみなして課税する可能性があります。

契約書において各要素の対価を明確に区分(アンバンドリング)し、非課税となる部分を切り分けることが、適正な税務処理のために推奨されます。

台湾における2025年税制改正:還付請求期間の延長

2025年の税制改正において、台湾でビジネスを展開する日本企業にとって極めて重要な変更が行われました。台湾財政部は「適用所得税協定査核準則(所得に対する租税に関する二重課税の回避に関する協定の適用に関する規則)」第34条を改正し、租税協定に基づく過誤納付税金の還付請求期間を大幅に延長しました。

改正前は、租税協定(日台租税協定等)による軽減税率や免税の適用を失念して納税した場合、還付請求ができる期間は納付日から5年で時効となっていました。しかし、今回の改正により、この期間が10年へと倍増されました。

この改正は2025年4月10日より施行されており、同日時点で旧ルールの5年時効が完成していない案件については、自動的に10年の新ルールが適用されます。これにより、本来は10%の軽減税率が適用されるべきところを20%の税率で源泉徴収されていたケースなどにおいて、過去最大10年分に遡って過払い税金を取り戻す道が開かれたことになります。

台湾での日台租税協定適用のための実務手続き

協定の特典(10%税率や免税)は自動的に適用されるものではありません。台湾の税務当局に対して所定の手続きを行う必要があります。手続きには二つの方法があります。支払いの前に軽減税率の適用を受ける事前免除・軽減申請と、一旦通常税率で納税した後に差額を取り戻す事後還付請求です。

申請には主に以下の書類が必要となります。居住者証明書については、日本の所轄税務署で発行されるもので、日台民間租税取決め用であることを明記する必要があります。台湾の実務では原則として発行から6ヶ月以内のものが求められます。定期的な取得が推奨されますが、台湾財政部により一定の緩和措置も設けられています。

租税協定適用申請書については、台湾税務当局指定のフォームを使用します。所得の証明書類としては、契約書、計算書、配当決議書など、支払いの根拠となる書類が必要です。現地の代理人が手続きを行う場合は授権書も必要となります。台湾税務当局は手続きにおいて形式要件を厳格に審査します。書類の不備による却下を避けるためには入念な準備が必要です。

まとめ

日台間のビジネスにおいて、租税協定の活用は単なるコスト削減策にとどまりません。事業の収益性を確保するための必須の経営課題です。2025年の還付請求期間延長は、過去の取引を見直す絶好の機会を提供しています。

IT企業においては、ソフトウェア取引が物品とみなされるかロイヤリティとみなされるかの判断が税務コストを大きく左右します。契約段階からの戦略的な設計が求められます。

モノリス法律事務所は、日本のIT法務に精通した弁護士と、台湾の法制度および実務に精通した椽智商務科技法律事務所との連携により、台湾ビジネスに関わるあらゆる法的課題に対応可能です。契約書の作成から税務当局への申請手続き、現地での法人登記やビザ取得に至るまで、ワンストップでサポートを提供いたします。

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