日本の判決は台湾で執行できるか?民事訴訟法402条の承認要件を解説
日本企業が台湾企業と取引を行う中で、代金未払いや契約違反といったトラブルが発生することは珍しくありません。日本国内の裁判所で勝訴判決を得たとしても、被告である台湾企業が日本国内に資産を持たない場合、台湾にある預金や不動産、売掛金等に対して執行できなければ実質的な解決には至りません。法的な強制力は国家の主権に由来するため、日本の裁判所が下した判決は原則として日本国内においてのみ効力を有します。国境を越えて権利を実現するためには、台湾の法制度に則った特別な手続きが必要です。
本記事では、日本の確定判決を台湾で強制執行するための法的枠組みについて解説します。台湾民事訴訟法第402条に基づく外国判決の承認要件、2024年末に改定された裁判費用、そして実務上最も躓きやすい送達の問題について、最新の法令と実務運用に基づき詳述します。
目次
台湾における外国判決の承認と執行の二段階プロセス
国際的な民事紛争において、日本の判決を台湾で強制執行するためには、承認と執行という二つの段階を経る必要があります。
承認とは、外国の裁判所が下した判決を台湾の法秩序においても有効な判断として受け入れることを指します。台湾の法制度では、民事訴訟法第402条に定められた拒絶事由に該当しない限り、外国判決は承認判決を別途取得する必要はありません。要件さえ満たしていれば、日本の判決は台湾でも確定判決と同様の効力を持ちます。
承認されただけでは、台湾の執行官を動かして財産を差し押さえることはできません。物理的な強制力を発動するためには、台湾の裁判所に対して「許可執行之訴」を提起し、外国判決に基づいて強制執行を行うことを許可する旨の判決を得る必要があります。台湾の強制執行法第4条の1に規定されており、実務上はこの訴訟の中で日本判決が承認要件を満たしているかどうかが審理されます。
この訴訟では実質的再審査の禁止が重要な原則となります。台湾の裁判所は、日本の判決における事実認定が正しかったか、契約解釈に誤りがないかといった本案については再審理を行いません。審理の対象は、その判決が台湾の法律上の承認要件を満たしているかという形式的要件に限定されます。
台湾民事訴訟法第402条が定める4つの承認要件

日本の判決が台湾で承認され執行許可を得るためには、台湾民事訴訟法第402条が定める4つの拒絶事由のいずれにも該当しないことが必要です。間接管轄権、適法な送達、公序良俗、相互保証の4点に集約されます。
日本の裁判所に管轄権があったか
第1の要件は、判決を下した日本の裁判所が台湾の法律の基準に照らしても正当な管轄権を持っているかという点です。これを間接管轄と呼びます。当事者間で東京地方裁判所を専属的合意管轄とする旨の有効な合意があった場合や、契約の義務履行地が日本であった場合などは、台湾法においても日本の管轄権が認められる可能性が高くなります。一方、台湾の不動産に関する訴訟など、台湾法が自国の専属管轄と定めている案件について日本で判決を得ても、管轄権がないものとして承認されません。
台湾への送達と公示送達の禁止
実務上最も注意を要するのが第2の要件である適法な送達です。台湾民事訴訟法第402条第1項第2号は、敗訴した被告が訴訟に応じなかった欠席判決の場合、訴訟の開始に必要な通知が相当な期間をおいて適法に送達されたことを求めています。
極めて重要なのが公示送達の扱いです。日本の民事訴訟では、相手方の所在が不明な場合に裁判所の掲示板への掲示をもって送達とみなす公示送達制度があります。台湾の裁判所は、公示送達による欠席判決を厳格に審査し、承認は極めて困難です。被告が訴訟の存在を知り防御する機会が実質的に保障されていないとみなされるためです。
日本と台湾の間には国交がないため、通常の外交ルートを通じた送達やハーグ送達条約の利用はできません。その代わり、公益財団法人日本台湾交流協会と台湾日本関係協会を経由した特別の送達ルートが整備されています。この手続きには数ヶ月を要することもありますが、将来的に台湾での執行を考えているのであれば、安易に公示送達を選ばず正規ルートを通じて確実に被告へ訴状を届けることが不可欠です。
公序良俗と相互保証
第3の要件は、判決の内容や訴訟手続きが台湾の公共の秩序や善良な風俗に反しないことです。通常の商取引に関する判決であれば問題になることは稀です。実損を超えて制裁的な賠償を命じる懲罰的損害賠償については、台湾の公序良俗に反するとして承認されない、あるいは減額される可能性があります。
第4の要件は相互の保証です。日本が台湾の判決を承認するなら台湾も日本の判決を承認するという原則です。過去には国交の不在が懸念材料とされましたが、現在では日台双方の裁判所が互いの判決を承認する判例を積み重ねています。台湾高等裁判所2004年判決などがあり、実務上は相互保証が存在するものとして運用されています。
台湾で執行許可訴訟を進める実務プロセス

台湾で執行許可判決を得るためには、日本での判決確定後、一連の文書認証手続きを経て台湾の裁判所に提訴する必要があります。まず日本の裁判所で判決正本と判決確定証明書を取得します。次に、これらの公文書が真正なものであることを証明するために、日本国外務省での公印確認と台北駐日経済文化代表処での認証を受けます。台湾はハーグ条約非加盟国であるため、アポスティーユによる簡略化はできません。
これらの文書の中国語繁体字翻訳文を作成し、その翻訳についても認証を受ける必要があります。準備が整って初めて、台湾の管轄裁判所に訴状を提出できます。管轄裁判所は通常、債務者の住所地または財産所在地となります。
以下の表は、台北駐日経済文化代表処における文書認証の概算費用と所要日数を示したものです。
表1:台北駐日経済文化代表処(TECO)文書認証手数料(目安)
| 手続き項目 | 手数料(1通あたり) | 備考 |
| 文書認証(商務・公文書) | 約2,300円(15USD相当) | 裁判所文書、委任状など。速達対応(50%増)が可能 |
| 翻訳認証 | 約2,300円(15USD相当) | 日本語から中国語への翻訳文に対する認証 |
| 所要日数 | 通常5営業日程度 | 申請状況により変動するため余裕を持ったスケジュールが必要 |
※手数料は米ドルベースで設定されており、申請時の為替レートにより日本円支払額が変動します。
台湾の裁判費用と2024年改定によるコスト増加
台湾での訴訟提起にあたっては、裁判所に納める裁判費用を原告が一時負担する必要があります。訴訟費用は、2024年12月30日施行の改正法により増額されています。日本の印紙代と同様に請求する金額に応じて費用が算定されますが、高額な請求になればなるほど予納すべき金額も大きくなります。最終的には敗訴者の負担となるのが原則ですが、回収可能性が不透明な案件では初期費用が実質的なリスクとなります。
表2:台湾民事訴訟費用(第1審・2024年改定後の目安)
| 請求額(TWD) | 日本円換算(概算) | 裁判費用(TWD) | 費用の割合 |
| 100万TWD | 約450万円 | 約10,900TWD | 約1.1% |
| 1,000万TWD | 約4,500万円 | 約100,000TWD | 約1.0% |
| 1億TWD | 約4.5億円 | 約900,000TWD | 約0.9% |
※1TWD=約4.5円として換算。正確な金額はスライド制の計算式に基づきます。
これに加え、台湾の弁護士費用や翻訳費用が発生します。強制執行を行う段階では、概ね執行金額の約0.8%に相当する執行費用が別途必要となります。
まとめ
日本の判決を台湾で執行することは法制度上十分に可能です。実現するためには、日本での訴訟段階から台湾での執行を見据えた戦略的な対応が求められます。公示送達を回避して被告に確実に訴状を届けることや、契約段階での管轄合意の明確化は、後の執行プロセスをスムーズにするための重要な布石となります。2024年の費用改定により、訴訟コストの事前見積もりと相手方の資産調査の重要性は一層高まっています。債務名義を得ても空振りに終わらせないためには、法的な手続きと並行して実効性のある回収戦略を練ることが不可欠です。
モノリス法律事務所は、IT・ベンチャー企業の国際展開を支援する中で、台湾の椽智商務科技法律事務所と緊密に連携しています。現地の法令に精通した弁護士との協力体制により、文書の認証から現地での訴訟提起、資産調査、そして強制執行に至るまで、言語や制度の壁を越えたワンストップのサポートを提供することが可能です。台湾企業とのトラブル解決や債権回収をご検討の際は、ぜひご相談ください。
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