台湾法務の最新トピックス2026:日本企業が注目すべき法改正まとめ
2026年の台湾は、デジタル化と脱炭素社会への移行、人口構造の変化に対応するため、法制度の抜本的な再構築を進めています。AIガバナンスの法制化、炭素費の実質徴収開始、重要技術の保護強化など、企業経営を左右する法改正が相次いで施行されました。台湾に進出する日本企業には、従来のビジネス慣行の見直しと、より高度なコンプライアンス体制の構築が求められます。労働力不足を背景とした賃上げ圧力や高度人材獲得のための規制緩和は、人事戦略の転換を迫る一方で、新たな成長機会も提供しています。
本記事では、2026年執筆時点で把握すべき法務の最新動向を解説します。AI規制、個人情報保護、脱炭素、労働法制、経済安全保障といった主要トピックスについて、日本法との異同を意識しながら、実務への影響と対応策を詳述します。
目次
台湾AIガバナンスの法制化

ソフトローからハードローへの転換
台湾のAIガバナンスは、ガイドラインによる自主規制が中心でした。しかし2025年12月23日に人工知能基本法(AI基本法)が成立し、法的拘束力を伴う規制へと移行しています。この法律はEUのAI法の影響を受けつつも、台湾の産業特性に配慮した設計となっており、国家科学技術委員会(NSTC)が主務官庁として統括しています。
最大の特徴は、AIシステムのリスクレベルに応じた規制を適用するリスクベースアプローチが明文化された点です。数位発展部(MODA)は2026年第1四半期を目処に、リスク分類フレームワークと高リスクAI向け評価ツールの詳細を公表する予定です。日本ではガイドラインベースの対応が主流ですが、台湾では医療、金融、交通などの分野でAI基本法の下位法令が整備されます。違反時には法的責任が問われる可能性があり、日本とは大きく異なる点といえるでしょう。
労働者の権利保護と透明性確保
日本企業が注意すべき点として、AI基本法が労働者の権利保護に踏み込んでいることが挙げられます。AI導入によって雇用の代替や職務変更が生じる労働者に対し、政府や企業が就労相談や再教育支援を行うことが求められています。採用活動や人事評価にAIを利用する場合、アルゴリズムにバイアスが含まれていないか、判断プロセスが公正であるかが厳しく問われます。企業は、AIシステムの開発および利用段階で透明性を確保し、人間による監督(ヒューマン・イン・ザ・ループ)の仕組みを構築しなければなりません。
台湾個人情報保護法の大改正

独立監督機関の始動と厳罰化
2026年は、台湾の個人情報保護法制(PDPA)において運用が厳格化される年となります。改正法により、各業界の主務官庁に分散していた監督権限が、行政院直属の独立機関である個人資料保護委員会(PDPC)に一元化されました。PDPCは強力な立入検査権や命令権を有しており、民間事業者に対する監視体制が大幅に強化されています。日本では個人情報保護委員会が2016年から活動していますが、台湾では2026年にようやく同様の独立機関が本格稼働を開始した形です。
データ漏洩時の通知義務と制裁金
改正法では、個人データ漏洩時の対応義務が厳格化されました。企業は漏洩の事実を知った時点で、速やかに本人へ通知することが最優先義務とされます。一定の条件下では監督機関への通報も義務付けられています。日本の個人情報保護法と比較しても、初動のスピードと通知要件が厳しく設定されています。通知を怠った場合や是正命令に従わない場合には、違反1回ごとに累積する高額な罰金が科される仕組みが導入されました。
セキュリティ体制の構築義務
民間企業には、個人データファイルの安全維持措置と管理メカニズムの構築が義務付けられています。PDPCが策定するガイドラインに準拠したセキュリティ体制の整備が必要であり、違反時には高額の過料が科される可能性があります。日本本社と同じセキュリティポリシーを適用するだけでは不十分な場合があり、台湾独自の要求事項に合わせた規定の改定と運用体制の見直しが急務です。
台湾の炭素費徴収開始と脱炭素経営

炭素費の導入と料率構造
気候変動対応法に基づき、2026年5月から前年(2025年)の温室効果ガス排出量に対する炭素費(Carbon Fee)の徴収が開始されます。対象は年間排出量が25,000トン(CO2換算)を超える大規模事業者です。環境部が決定した料率は、企業の削減努力に応じて大きく異なります。
特段の削減措置を講じない場合の一般料率は1トンあたり300台湾ドルです。一方、自主削減計画を提出し業界別指定削減率を達成した場合は優遇料率Aとして50台湾ドル、技術ベンチマーク指定削減率を達成した場合は優遇料率Bとして100台湾ドルが適用されます。一般料率と優遇料率Aの間には6倍もの価格差があるため、自主削減計画の策定と承認取得はコスト競争力を維持する上で極めて重要です。
自主削減計画とサプライチェーン管理
優遇料率の適用を受けるには、環境部に対して具体的な削減目標を含む自主削減計画を提出し、承認を得る必要があります。計画には、2030年をターゲットとしたSBTi(Science Based Targets initiative)準拠の目標設定などが求められます。日本企業は自社工場での対応に加え、台湾サプライヤーからのコスト転嫁リスクや脱炭素対応状況の開示要求への備えが必要です。支払った炭素費はEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)におけるコスト控除の対象となる見込みであり、国際的なサプライチェーンにおけるデータ整合性も重要な課題となります。
台湾の労働法制と人材戦略
最低賃金の引き上げと人材確保
2026年1月1日より、最低賃金(基本工資)は月給29,500台湾ドル、時給196台湾ドルへと引き上げられました。10年連続の引き上げであり、社会保険料や退職金積立の負担増にも直結します。台湾ではインフレと労働力不足を背景に賃上げ圧力が強く、給与水準を見直さなければ優秀な人材の確保が困難な状況です。
高度外国人材の受入緩和
人材不足解消のため、台湾政府は「外国専門人材招聘雇用法」を改正し、高度人材の受入要件を大幅に緩和しました。世界トップ200大学の卒業者は、雇用先未定でも最長2年間の個人就労許可を自ら申請できるようになり、日本企業はビザのスポンサー義務を負わずに、これら優秀なグローバル人材を即戦力として採用することが可能です。
台湾国内の外国人留学生については、準学士以上の学位取得後、最長2年間の求職滞在期間中、労働部への就労許可申請なしでフルタイム就労が可能となる画期的な措置が2026年より施行されました。ベトナムやインドネシア等からの留学生を、従来の煩雑な審査や給与基準に縛られず雇用できる点は、日本企業にとって極めて大きなメリットです。また、台湾で修士・博士号を取得した人材は、その期間を永住権(APRC)取得に必要な居住期間に算入(最大2〜3年)できるため、高度人材の長期定着をより強力に促せる環境が整っています。
職場環境の改善義務
労働安全衛生法の改正により、職場におけるいじめ(職場覇凌)の定義が明確化され、防止措置が義務付けられました。企業は相談窓口の設置や迅速な調査を行う必要があり、対応を怠った場合は罰則の対象となります。気候変動対策の一環として、屋外作業における熱中症予防措置も厳格化されており、違反時には企業名の公表などの制裁が科される可能性があります。
台湾の経済安全保障と知的財産保護

営業秘密保護の厳罰化と司法判断
台湾では、半導体などの重要技術を国家核心關鍵技術に指定し、その流出を国家安全法上の犯罪として厳しく処罰しています。2026年初頭には、TSMCの技術情報を不正に持ち出そうとした元従業員に対し、裁判所が接見禁止付き勾留という厳しい措置を認めました。この事例から、技術窃盗に対する司法の姿勢が極めて厳格であることがわかります。
知的財産及び商務法院の役割
営業秘密侵害事件の第一審は、専門的な知見を持つ知的財産及び商務法院に管轄が集中されており、迅速かつ的確な審理が行われています。企業が営業秘密として法的保護を受けるには、平時からアクセス制限やログ監視などの合理的保秘措置を講じていることが前提となります。日本企業は台湾拠点における情報管理体制を再点検し、物理的・技術的な漏洩防止策を徹底する必要があります。
台湾のデジタル金融規制と税制
暗号資産事業者の登録義務化
マネーロンダリング防止法の改正により、暗号資産関連サービス(VASP)を提供する事業者には登録が義務付けられました。未登録営業には2年以下の懲役などの刑事罰が科されます。Web3ビジネスで台湾市場に参入する場合、金融機関並みの厳格な本人確認(KYC)や内部管理体制の構築が必須条件となります。
CFC税制の実質適用
タックスヘイブン対策税制(CFC税制)が実務上の定着フェーズに入り、低税率国にあるペーパーカンパニー等の留保利益に対する課税が強化されています。地域統括会社などを通じてグローバル展開を行っている日本企業は、実質的活動基準の証明や二重課税調整について、現地の専門家と連携した緻密な対応が求められます。
まとめ
2026年の台湾法務環境は、イノベーションの促進と法執行の厳格化という二つの側面を併せ持っています。AIや高度人材に関する規制緩和は新たなビジネスチャンスを生み出す一方、個人情報保護、脱炭素、経済安全保障に関する規制強化は高度なリスク管理能力を要求しています。日本の法制度と類似した外観を持ちながらも、台湾独自の厳格な運用や重い罰則が存在する分野が多く、日本本社と同じ感覚で対応することは大きなリスクを伴います。
モノリス法律事務所は、IT・クロスボーダー法務に特化した専門性を活かし、台湾の提携事務所である椽智商務科技法律事務所と連携して、日本企業の台湾ビジネスをサポートします。台湾での事業展開における法的課題については、ぜひお気軽にご相談ください。
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