日台取引における契約書の落とし穴:準拠法と管轄裁判所の選び方
日本と台湾の経済関係は、地理的な近接性と歴史的な背景、そして相互補完的な産業構造を基盤として、かつてないほどの深化を遂げています。特に近年では、半導体サプライチェーンの再編、デジタルトランスフォーメーションの加速、そしてEコマース市場の越境的な統合が進み、IT企業や製造業を中心としたクロスボーダー取引が急増しています。台湾は日本にとって第4位の貿易相手国であり、日本は台湾にとって第2位の貿易相手国です。
しかしこの友好的なビジネス環境と親日という文化的安心感は、時として法的な落とし穴を隠蔽する要因となります。多くの日本企業は欧米企業との取引では厳格な契約審査を行う一方で、台湾企業との取引においては楽観的な予断を持ちがちです。「日本の商習慣が通じるだろう」「トラブルになっても話し合いで解決できるだろう」という考えから、契約書のドラフティングにおいて準拠法や管轄裁判所といった紛争解決条項の検討がおろそかにされます。定型的な「日本法準拠・東京地方裁判所管轄」という条項を機械的に挿入するケースが後を絶ちません。
本記事では、日台取引における契約リスクを解説します。表層的な条文解釈にとどまらず、台湾の裁判所における実際の運用、判例の動向、そして日本法との構造的な相違点に焦点を当てます。
目次
台湾における準拠法の選択戦略:日本法神話の崩壊と台湾法適用のリアリティ
国際契約においてどこの国の法律をルールの基準とするかは、契約の解釈、効力、そして履行の在り方を決定づける最重要要素です。日本企業にとって、言語や法概念が共通し予測可能性の高い日本法を準拠法とすることは、交渉における第一義的な目標となることが多いです。しかし日台取引において日本法を選択することが常に最善の策であるとは限りません。
台湾国際私法における当事者自治とその限界
台湾における法の適用関係を規律する基本法は、渉外民事法律適用法です。同法第20条第1項は、法律行為の成立及び効力は当事者の意思により適用すべき法律を定めると規定しており、いわゆる当事者自治の原則を明認しています。
この原則に基づきB2B取引において日本法を準拠法とする合意は、台湾の裁判所においても原則として有効です。しかしこれには公序良俗という強力な例外規定が存在します。同法第8条は、外国法の適用結果が台湾の公序良俗に反する場合、その外国法は適用されないと定めています。
強行法規のオーバーライド問題
ITビジネスにおいて特に注意が必要なのは、準拠法合意にかかわらず適用される強行法規の存在です。台湾の裁判所は、当事者が外国法を選択したとしても、それが台湾の法秩序における基本的な価値観や弱者保護の要請を回避する目的でなされた場合、台湾の強行法規を優先的に適用する傾向があります。
日本のアプリ事業者やEC事業者が台湾の消費者にサービスを提供する際、利用規約で準拠法は日本法と定めたとしても、台湾の消費者保護法が定める強行規定は排除できません。通信販売における7日間の無条件解約権(クーリング・オフ)や、定型約款の不当条項規制などは、日本法の規定よりも消費者に手厚い保護を与えており、これらが優先適用されます。日本法準拠の規約を作成しても、台湾市場向けには別途、現地の消費者保護法に準拠した特約やローカライズが必要となります。
現地で台湾人を雇用する場合も同様です。雇用契約の準拠法を日本法としても、解雇要件、退職金、残業代などの労働条件については、台湾の労働基準法が強制的に適用されます。特に解雇に関しては、台湾法は正当な理由を厳格に要求しており、日本法に基づく解雇の有効性が否定されるリスクが高いです。
日本法を選択した場合の証明責任コスト
契約交渉の結果、日本法を準拠法とすることに成功し、かつ管轄を台湾の裁判所とした場合、実務上の大きな負担が生じます。それは外国法の証明です。台湾の裁判官は当然ながら日本法の専門家ではありません。民事訴訟において日本法が準拠法となる場合、その内容を裁判所に説明し証明する責任は、その適用を主張する当事者にあります。具体的には日本の法学者や実務家による意見書を提出する必要がありますが、これには多額の費用と時間を要します。
さらにリスクとなるのが、台湾の裁判所による日本法の独自解釈です。日本の法的概念(たとえば信義則や権利濫用)は台湾法とも共通するものの、その適用基準や文脈は微妙に異なります。台湾の裁判官が台湾法的思考のフィルターを通して日本法を解釈した結果、日本企業が予期しない判決が下される可能性は排除できません。
台湾法を選択する戦略的メリット
逆にあえて台湾法を準拠法とすることは、合理的かつ戦略的な選択肢となり得ます。台湾の民法典は歴史的にドイツ法および日本の旧民法の影響を色濃く受けており、債務不履行、不法行為、契約解除といった基本概念の構造は日本法と極めて類似しています。
台湾法を選択する最大のメリットは、台湾での訴訟遂行の効率性です。現地の弁護士が母国法である台湾法に基づき主張・立証を行うことで、法解釈の誤解リスクを最小化できます。また相手方(台湾企業)にとっても自国法であるため、契約交渉時の心理的障壁が下がり、ビジネスのスピードアップにつながるという副次的効果も期待できます。
ただし台湾法を選択する場合には、次章以降で解説する日本法とは異なる落とし穴を正確に把握し、契約条項で手当てをしておくことが不可欠です。
台湾民法第127条「2年の短期消滅時効」:最大の落とし穴

日台間の契約トラブルにおいて、日本企業が最も意図せざる不利益を被る、まさに死角とも言える論点が消滅時効です。日本の民法(2020年改正)では商事債権の時効は原則として権利を行使できることを知った時から5年に統一されましたが、台湾民法には特定の債権について極めて短い時効期間が設定されています。
台湾民法の時効体系と商人の特則
台湾民法第125条は、一般的な請求権の消滅時効を15年と定めています。これだけを見れば日本法よりも債権者に有利なように思えます。しかしこの一般原則には強力な例外規定が存在します。第126条では利息、配当、賃料など1年以下の定期給付債権について5年の時効が定められています。問題となるのは第127条第8号です。同号は、商人、製造人、手工業者が供給した商品及び産物の代価についての請求権は、2年間行使しないときは消滅すると規定しています。
IT取引における商品と2年時効の適用範囲
ITビジネスにおいてこの2年の壁は広範に立ちはだかります。日本企業が台湾企業に対して何らかの製品やサービスを提供し対価を請求する場合、その多くが第127条の適用対象となる可能性があります。
ハードウェア・機器販売において、サーバー、PC、IoTデバイスなどの物理的な機器の販売代金は、文言通り商品に該当し明確に2年の時効にかかります。パッケージソフトウェア・ライセンスについても、それが製造人が供給した産物と解釈される可能性が高いです。台湾の裁判所は、商人がその営業の範囲内で供給する定型的な製品については、第127条を適用する傾向があります。
システム開発(請負契約)についてはさらに注意が必要です。第127条第7号は、技師、承攬人(請負人)の報酬についても2年の時効を定めています。したがってシステム開発ベンダーが請求する開発委託費も、この短期時効の対象となり得ます。SaaS・サブスクリプションのようなクラウドサービスの場合、毎月の利用料は1年以下の期間で定めた定期給付債権として民法第126条の5年が適用されるとの解釈も成り立ちます。しかしその実質が商品の分割払いや製造物の対価に近いと判断されれば、第127条の2年が適用されるリスクは残ります。
日本企業の陥りやすい失敗パターン
日本国内の感覚では、売掛金の回収交渉において相手との関係維持を考慮し、法的措置を躊躇して1〜2年が経過することは珍しくありません。特に相手がもう少し待ってほしいと支払猶予を求めてきたり、一部入金をしてきたりする場合、日本企業はそれを信頼して待つ傾向があります。
しかし台湾法が適用される場合、請求権発生から2年が経過した時点で相手方が時効を援用すれば、債権は確定的に消滅します。内容証明郵便による催告を行っても、そこから6ヶ月以内に訴訟提起などの強力な措置を行わなければ、時効中断の効力は失われます(台湾民法第130条)。
リスクヘッジのための契約条項
この2年時効のリスクを回避するためには、いくつかの対策が必要です。準拠法による回避として、契約書において準拠法を日本法とし、かつ時効に関しては日本法を適用する旨を明記します。時効は実体法上の問題であるため、準拠法の指定により日本法(5年/10年)を適用させることが理論上は可能です。
契約上の特約として、台湾法準拠の場合でも契約書で第127条の適用を排除し時効期間を5年とするといった合意をすることが考えられます。しかし時効期間の伸長に関する合意は、台湾法上公序良俗や強行法規の観点から無効とされるリスクがあるため、慎重な検討が必要です。
債権管理の厳格化として、台湾企業に対する債権管理のリミットを1年半に設定し、それを超える滞留債権については直ちに台湾の裁判所での支払命令申立てや仮差押えを実行する運用体制を構築することが最も確実です。
台湾における損害賠償額の予定と司法介入:台湾民法第252条の脅威
契約書において債務不履行時の損害賠償額をあらかじめ定めておく損害賠償額の予定条項は、IT契約において極めて一般的です。秘密保持契約における情報漏洩時の違約金や、システム開発遅延時の遅延損害金などがこれに該当します。日本法では当事者が合意した賠償額の予定は原則として尊重され、裁判所がこれを増減することはできません(日本民法第420条)。しかし台湾法においては、裁判所による強力な減額権が存在し、これが契約の拘束力を弱める要因となっています。
裁判所による職権減額のメカニズム
台湾民法第252条は、約定した違約金が過度に高額であるときは裁判所はこれを相当の額まで減額することができると規定しています。ここで重要なのは以下の2点です。職権発動として、債務者からの申立てがなくても裁判官が自らの判断で減額できます。適用範囲として、ここでいう違約金には制裁的な違約罰だけでなく、損害賠償額の予定も含まれると広く解釈されています。
減額の判断基準:最高法院判決の動向
どのような場合に過度に高額と判断されるのでしょうか。台湾の最高法院は減額の判断にあたって以下の要素を総合的に考慮すべきとの判例法理を確立しています。一般客観的な事実として当該社会の経済状況や金利水準、債務者が得た利益として違反行為によって債務者が実際に得た利益の額、債権者が被った損害として債務不履行によって債権者に生じた実損害の程度、一部履行の状況として債務の一部がすでに履行されている場合その割合が考慮されます。
たとえばシステム開発の遅延について1日あたり契約金額の1%という違約金を定めた場合、100日の遅延で契約金額全額に達してしまいます。台湾の裁判所はこのような条項を過度に高額と判断し、債権者に生じた実際の損害を基準として大幅に減額する可能性が高いです。
懲罰的違約金と損害賠償額の予定の使い分け
台湾の判例実務では、違約金を懲罰的違約金と損害賠償額の予定の2種類に区別しています。損害賠償額の予定の場合、原則としてこれ以上の損害賠償請求はできません。実損害が予定額より低ければ第252条により減額されます。懲罰的違約金の場合、債務不履行に対する制裁として支払われるもので、債権者はこれに加えて実損害の賠償を請求できます。
日本企業としては、契約書において当該条項が懲罰的違約金であることを明記し、かつ別途実損害の賠償を請求することを妨げない旨を規定することで、抑止力を高める工夫が必要です。ただし懲罰的違約金であっても第252条の減額対象となることには変わりがないため、万能ではありません。
具体的なドラフティング戦略
この減額リスクを最小化するためには、単に金額を書くだけでなく、その金額の合理性を契約書内で基礎づけておくことが有効です。条項例として「本条の違約金は、本契約違反により甲に生じる逸失利益、ブランド毀損、調査費用、および対応コスト等を合理的に見積もったものであり、当事者はこれが過大でないことを確認する」などが考えられます。このように金額の算定根拠を明示し、当事者が対等な交渉の結果として合意した事実を記録しておくことで、裁判所の裁量による大幅な減額を牽制する効果が期待できます。
台湾における契約終了の自由と制限:販売店・代理店契約における公平交易法のリスク

日本企業が台湾市場に進出する際、現地のパートナー企業と販売店契約や代理店契約を締結するケースは多いです。ビジネス環境の変化に伴いこれらの契約を終了させたい場面が出てきますが、ここにも台湾特有の法規制、特に公平交易法の壁が存在します。
契約終了を巡る正当な理由と法的保護
台湾民法上、期間の定めのない契約は原則としていつでも解約の申し入れができます。しかし販売店契約のように代理店側が投下資本の回収を期待して長期的な関係を前提としている契約においては、判例上、信義則に基づき解約権の行使が制限されることがあります。特に十分な予告期間を与えずに突然契約を打ち切る行為は、不法行為責任を構成し、損害賠償の対象となるリスクがあります。
公平交易法第25条「明らかに不公正な行為」
より深刻なリスクは競争法にあたる公平交易法による規制です。同法第25条は包括的な一般条項として、事業者は取引の秩序に影響を及ぼす欺瞞的又は明らかに不公正な行為をしてはならないと定めています。日本企業が市場において優越的な地位を利用し、台湾の販売店に対して不当に契約終了を通告したり更新を拒絶したりする行為が、この明らかに不公正な行為に該当すると認定されるリスクがあります。
在庫処理と補償の条項設計
契約終了紛争の火種となりやすいのが在庫です。契約終了時に販売店が抱える在庫についてサプライヤー側が買取りを拒否した場合、販売店は投下資本を回収できず、公平交易委員会への提訴や損害賠償請求に踏み切る可能性が高まります。したがって契約書には以下の条項を明確に定めておく必要があります。
予告期間として少なくとも3ヶ月から6ヶ月前には終了通知を行うことを規定し、相手方に在庫処分の猶予を与えます。正当事由の列挙として販売目標の未達、支払遅延、契約違反など客観的な終了事由を具体的に列挙します。在庫買取りルールとして契約終了時の在庫はサプライヤーが定価の○%で買い取る、あるいは買取り義務を負わない旨を明記します。ただし買取り義務なしとする場合でも、それが公平交易法上の不当な取引制限とみなされないよう、正当な理由を用意しておくことが重要です。
台湾における管轄裁判所の選び方と執行のリアリティ
契約書の最後尾の紛争解決条項に何を記載するか。これはいざ紛争が起きた際のコストと勝敗を決定づける戦略的選択です。「とりあえず東京地方裁判所」と記載することが常に最善とは限りません。
日本の判決は台湾で執行できるか(相互保証の現状)
日本企業にとっての理想的なシナリオは、日本の裁判所で勝訴判決を得てそれを台湾に持ち込み、台湾にある相手方企業の資産に対して強制執行を行うことです。これが可能かどうかが管轄選びの最大の分かれ目となります。結論から言えば、日本の判決は台湾で承認・執行が可能です。
台湾の民事訴訟法第402条第1項第4号は、外国判決の承認要件として相互の承認を求めています。日本と台湾の間には正式な国交がなく、相互承認に関する条約も存在しません。しかし台湾の裁判所は実務上、事実上の相互承認が存在するとして日本の判決の効力を認める運用を定着させています。同様に日本の裁判所も台湾の判決を承認しています。
したがって専属管轄を東京地方裁判所とする合意は、台湾での執行を視野に入れても十分に有効な選択肢です。ただし日本の判決を台湾で執行するためには、台湾の裁判所で改めて執行許可の訴えを提起し判決を得る必要があります。
送達の壁と公示送達のリスク
日本管轄の最大のリスクは適法な送達の問題にあります。台湾民事訴訟法第402条第1項第2号は、敗訴した被告が訴訟に応じなかった場合、訴状の送達が適法になされたことが承認の条件となると規定しています。
日台間には司法共助協定がないため、日本の裁判所から台湾の被告への送達は煩雑な手続きを経る必要があり、完了までに数ヶ月を要することがあります。もし送達がうまくいかず、日本の裁判所が公示送達によって欠席判決を下した場合、台湾の裁判所はその判決の承認を拒否する可能性が高いです。
したがって、相手方が逃亡したり住所が不明確になったりするリスクがある場合は、日本での訴訟は勝っても執行できない事態に陥る危険があります。
台湾管轄の戦略的メリット
これに対しあえて台湾の裁判所を専属管轄とするメリットがあります。保全処分の実効性として、相手方の資産隠しを防ぐための仮差押えは資産の所在する台湾の裁判所に申し立てる必要があります。本案訴訟も台湾で行う方が保全から執行までの一貫性が保たれ、迅速な回収が可能となります。送達リスクの回避として、被告が台湾国内にいれば台湾の裁判所による送達はスムーズに行われるため、送達瑕疵による判決無効のリスクが低いです。
コストとスピードについても、台湾の訴訟費用は比較的低廉であり(訴額の約1%)、審理のスピードも日本と比較して遜色ありません。契約書においては民事訴訟法第24条に基づき、合意管轄が専属的であることを明記しなければなりません。単に裁判所名を記載しただけでは競合的管轄とみなされ、相手方から別の裁判所に提訴されるリスクが残ります。
第三の選択肢:仲裁
国交がないという特殊性に起因する送達や承認の不安を完全に払拭したい場合、国際仲裁が最も安全な選択肢となります。台湾の仲裁法は外国仲裁判断の承認に積極的であり、日本商事仲裁協会や台湾の中華仲裁協会での仲裁判断は相互にスムーズに執行されている実績があります。特にシステム開発などの技術紛争では、技術的知見を持つ専門家を仲裁人に選任できるメリットも大きいです。
台湾におけるデジタル実務の留意点:電子署名とデータ移転

最後にデジタル・トランスフォーメーションが進む日台ビジネスにおいて必須となる、電子契約とデータ保護に関する法的論点を整理します。
電子契約・電子署名の有効性と証拠能力
現在、日台間の契約実務においても紙とハンコからDocuSignやAdobe Sign、クラウドサインといった電子署名サービスへの移行が急速に進んでいます。台湾の電子署名法は、相手方の同意がある場合、電子署名は手書き署名と同等の法的効力を有すると定めています。裁判実務においても電子記録の証拠能力は広く認められています。
ただし電子署名が真正に成立したものと推定されるためには、一定のセキュリティ要件を満たすことが推奨されます。DocuSignなどのグローバルスタンダードなサービスは台湾の裁判所でもその信頼性が認められやすいですが、紛争時には改ざんされていないことを証明する監査ログの提出が求められます。
なお不動産設定契約や公的機関への申請書類など、法令により書面性が厳格に要求される一部の契約類型については、依然として電子署名が利用できない場合があるため注意が必要です。
個人データ保護法と越境移転規制
日本の改正個人情報保護法および台湾の個人情報保護法に基づき、日台間で顧客データや従業員データを移転する場合の規制もクリアしておく必要があります。台湾個人情報保護法第21条は、所轄官庁が一定の事情がある場合に個人データの国際転送を制限できると規定しています。国の重大な利益に関わる場合、国際条約や協定による場合、移転先国の法制度が不十分であり当事者の権利利益を侵害するおそれがある場合、適用を回避する目的で迂回移転する場合が該当します。
現時点では日本への一般的なデータ移転を禁止する命令は出されていません。実務上の対応としては、台湾ユーザーのデータを日本のサーバーに移転・保管する場合、プライバシーポリシーにおいてデータが日本に移転・保管されることを明記し、本人から包括的な同意を取得しておくことが基本となります。
まとめ
本記事で詳細に分析した通り、日台ビジネスにおける法的リスクは言語や文化の類似性に隠れて見えにくくなっているものの、実際には極めて構造的かつ深刻です。
第一に、2年のタイムリミットを直視した債権管理が必要です。台湾企業との取引において売掛金や開発費の請求権は、日本法の感覚よりもはるかに早くわずか2年で消滅時効にかかる可能性があります。社内の債権管理フローを1年半でアラートが鳴るように再設計し、早期の法的措置を躊躇しない体制を作ることが急務です。
第二に、管轄の実利重視が重要です。日本法・東京地裁のセットは心理的な安心感はあるものの、送達リスクや執行の二度手間を考慮すると必ずしもベストな選択ではありません。相手方の資産が台湾に偏在している場合や保全処分の迅速性を重視する場合は、あえて台湾法・台湾管轄を選択し現地の法廷闘争に備えることが、結果として回収率を高めることにつながります。
第三に、強行法規への適応と予防法務が求められます。消費者保護法、労働基準法、そして公平交易法といった台湾の強行法規は、準拠法の合意を無力化する力を持ちます。特に販売店契約の終了時には公平交易法第25条のリスクを考慮し、十分な予告期間と正当事由の証拠化を徹底する予防法務が求められます。
日台間のクロスボーダー法務は、日本の法律知識だけあるいは台湾の法律知識だけでは解決できない複合的な課題に満ちています。モノリス法律事務所はIT法務の専門性と台湾の椽智商務科技法律事務所の現地ネットワークを融合させ、契約書のドラフティングから紛争解決、執行実務に至るまでワンストップのソリューションを提供しています。親日という言葉に甘えることなく冷徹な法的分析と戦略的な契約設計を行うことこそが、日台ビジネスの真の成功と永続的なパートナーシップを築く道となります。
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