台湾における再生可能エネルギー発電事業への投資法務
世界的な脱炭素化の潮流の中で、台湾は日本のエネルギー投資家にとって地理的に最も近く、最もダイナミックな市場です。2025年非核家園(原発ゼロ)政策と2050年ネットゼロ排出目標を掲げる台湾政府は、洋上風力発電と太陽光発電の導入を国家プロジェクトとして推進しています。TSMCをはじめとする世界的な半導体メーカーがサプライチェーン全体に対して厳格なRE100達成を求めていることから、台湾国内におけるグリーン電力への需要は供給をはるかに上回る状態にあります。
しかし、2023年から2026年初頭にかけて、台湾の再生可能エネルギー関連法制は劇的な構造変化を経験しました。固定価格買取制度(FIT)からコーポレートPPA(CPPA)への移行、洋上風力発電における国産化規制の撤廃、太陽光発電用地をめぐる規制強化など、新たな法的リスクと商機が複雑に絡み合っています。本記事では、日本企業が今知っておくべき実務的な投資法務情報を解説します。
目次
台湾エネルギー法制の基盤と最新動向
台湾のエネルギー法制は、かつての国営電力会社による独占体制とは異なり、電気事業法による自由化と再生可能エネルギー発展条例による強力な促進策によって定義されています。再生可能エネルギー発展条例は、再エネ普及のために他の一般法に優先して適用される特別法です。2023年の改正とそれに続く施行細則の整備により、事業者には新たな義務と権利が付与されました。
建築物への太陽光設置義務化と市場への影響
2023年改正における最大の変更点の一つは、新築建物への太陽光発電設備設置の義務化です。一定規模以上の新築、増築、改築を行う建築物に対し、所有者または管理者に太陽光発電設備の設置を義務付けるものです。これにより、大規模地上設置型中心の市場に加え、都市部の屋根置き型市場が拡大する法的根拠が生まれました。
設備の設置を怠ったり、適切なメンテナンスやリサイクルを行わなかった場合には罰金が科され、改善されるまで連続して処罰される可能性があります。日本企業は、台湾での工場建設やオフィスビル開発において、設計段階から条項の遵守を厳格にチェックする必要があります。
地熱発電に関する法改正
同改正では地熱発電に関する権利関係も明確化されました。最大の変更点は、それまで温泉法に基づく不統一な手続きに依存していた地熱開発の申請・審査手続きが、再生能源發展條例の地熱専章(第15条の1〜第15条の5)として一本化された点です。中央政府(経済部)が主管機関として探勘許可・開発許可の審査を一元的に担うことが明定され、手続きの透明性と予測可能性が大幅に向上しました。
実務上の重要点として、探勘許可の申請には探勘場址の土地使用同意証明文件(土地所有者の同意書)の添付が子法上義務付けられており、地権者の同意なしにプロジェクトを進めることはできません。土地の確保は依然として開発事業者が交渉・解決すべき重要な法的課題であり、用地確保の難易度は日本と同様に高い点に注意が必要です。
廃棄物発電に関する法改正
2023年改正において廃棄物発電に関しては、再エネの「定義」(第3条)と「発電設備認定」(第11条)を区別して理解することが重要です。一般廃棄物および一般事業廃棄物を利用して産生されるエネルギーは、改正後も再生可能エネルギーの定義に含まれています。一方で、廃棄物を直接燃焼する発電設備は、再エネ発電設備の認定対象から除外されています。すなわち「再エネである」ことと「再エネ発電設備として認定を受けられる」ことは別であり、直接燃焼型はFITによる売電や再エネ証書の発行といった支援制度の対象外となります。
また、廃棄物を処理して燃料化したもの(いわゆるRPF等)については、第13条の熱利用奨励補助の対象として今回の改正で新たに追加されており、発電以外の熱利用の文脈では活用の余地が広がっています。日本企業が廃棄物を活用したエネルギー事業を検討する際には、①直接燃焼型か燃料化型か、②発電か熱利用か、という二つの軸で適用される制度スキームを整理したうえで、法的位置づけを確認するデューデリジェンスが不可欠です。
電力市場の自由化と信用リスクの変化
電気事業法の改正により、再エネ電力の託送と直売が可能になったことで市場構造は大きく変化しました。かつて事業の収益性は台湾政府による20年間の固定価格買取制度(FIT)に依存していましたが、現在は民間企業と直接契約を結ぶコーポレートPPA(CPPA)の方が収益性が高くなるケースが増えています。
リスクの所在は政府の信用リスクから民間企業の信用リスクへと移行しました。日本の金融機関が融資を行う際、購入者である台湾企業の長期間の存続可能性をどう評価するかが重要な争点となります。
洋上風力発電:台湾における規制の変遷と法的戦略

洋上風力発電は台湾の再エネ政策の中核ですが、開発フェーズがブロック開発(フェーズ3)へと移行する中で規制環境は複雑化しています。2024年11月に決着した欧州連合(EU)との世界貿易機関(WTO)紛争解決手続きにおける合意は、今後の投資戦略を決定づける重要な転換点となりました。
ローカルコンテンツ問題の法的決着
長年、海外投資家にとって最大の障壁となっていたのが、主要部品の一定割合を台湾国内から調達することを義務付ける産業関連性計画(ローカルコンテンツ要件)でした。しかし、EUからのWTO協議要請を受け、台湾政府とEUは歴史的な合意に達しました。今後の入札(ラウンド3.3以降)において、ローカルコンテンツ要件を参加資格や選定基準として強制しないことが決定されました。既に選定されたフェーズ3.2のプロジェクトについても、事業者が帰責性のない事由に直面した場合、柔軟性が適用されます。
日本の開発事業者にとって、コストが高く品質リスクのある部品を強制的に使う必要がなくなり、グローバルなサプライチェーンから最適かつ安価な調達が可能になることを意味します。台湾市場への参入を狙って現地工場を設立した部品メーカーにとっては、保護された市場を失い競争にさらされることになります。
フェーズ3.3における新ルールと最低買取価格
フェーズ3.3では、1サイトあたりの容量上限が最大1GWまで拡大され、スケールメリットによるコスト削減と開発加速が図られています。
また、プロジェクトファイナンスの組成を支援するため、新たに「最低買取価格(フロアプライス)メカニズム」が導入される方針です。これは、CPPA(相対契約)における余剰電力や、需要家の契約不履行(デフォルト)が発生した際、台湾電力が「回避可能原価」を基準とした価格で電力を買い取る仕組みです。
事実上の「電力引取保証(オフテイク保証)」として機能するため、金融機関の融資リスクが大幅に低減され、台湾における洋上風力発電事業のバンカビリティ(融資適格性)を高める決定的な役割を果たします。
以下の表は、フェーズ3における規制の主要な変化をまとめたものです。
| 項目 | ラウンド 3.1 / 3.2 (旧) | ラウンド 3.3 (2026年3月確定) |
| 国産化要件 | 必須(主要項目で60%以上等)。未達の場合は罰則あり。 | 撤廃(参加資格・選定基準から除外)。WTO合意による。 |
| 割当容量 | ランキングにより500MW〜900MW程度。 | 最大1GW(1,000MW)まで拡大。 ※さらに特定条件で50%の拡張枠あり。 |
| 価格メカニズム | 0元入札も可能(完全市場リスク)。 | 最低買取価格(2.29元/kWh)+CPPAのハイブリッド型。 |
| 選定基準 | 産業関連性(国産化)の履行能力を重視。 | 履約能力(実績・財務・執行力)およびESG・レジリエンスを重視。 |
太陽光発電:台湾における土地利用規制と法廷闘争リスク

洋上風力がサプライチェーンの問題と戦っている間、太陽光発電は土地利用をめぐる課題に直面しています。平地が少ない台湾において、太陽光パネルの設置場所と農業用地の競合は深刻な法的リスクとなっています。
農地規制の厳格化と開発地の移行
2020年の規制改正により、2ヘクタール未満の農地への太陽光発電設備の設置は原則禁止されました。規制は現在も効力を持っており、開発の主戦場は農地法の影響を受けにくい漁電共生(養殖池と太陽光の併設)や、塩害地などの不利耕作地に指定された大規模ゾーンへと移行しています。
国土計画法の全面施行延期
現在、台湾の土地利用法制は従来の地域計画法から、より包括的な国土計画法へと移行する過渡期にあります。当初2025年に予定されていた全面施行は延期されましたが、新法が施行されると土地は厳格な機能区分に分類されます。農業発展地区第1種(優良農地)に指定された土地では、エネルギー施設への転用がほぼ不可能になります。投資家は、対象の土地が将来的にどの区分に指定される予定なのか、地方政府のドラフト図面を確認し、法改正リスクを評価する必要があります。
漁電共生のオペレーショナルリスク
現在注目されている漁電共生プロジェクトですが、許可を維持するためには本来の漁業生産量の70%以上を維持しなければならないというルールがあります。養殖業者の廃業や生産量低下により発電事業許可自体が取り消されるリスクがあるため、日本企業が投資する場合、養殖業者との間で生産量維持契約を結ぶだけでなく、バックアップとなる養殖管理会社を確保するなどの高度な契約スキームが必要です。
行政訴訟と許認可リスクの管理
台湾における環境問題に関する行政訴訟のリスクは高まっており、一度許可が下りたプロジェクトであっても安心はできません。近年、開発許可の手続き上の瑕疵を理由に、裁判所や行政機関が許可を取り消す事例が発生しています。
ある発電所開発プロジェクトでは、地方自治体が過去に同意した開発許可を、開発範囲の変更などを理由に撤回し、環境アセスメント審査が中断に追い込まれる事態が発生しました。M&Aでプロジェクトを取得する際の法務デューデリジェンスでは、単に許可の有無を確認するだけでなく、パブリックコメントへの対応や住民説明会の開催手順に法的な不備がなかったか、プロセス全体を精査する必要があります。
発電事業許可は中央政府の権限ですが、実際の工事に必要な施工許可などは地方自治体の権限です。地方自治体の首長が政治的な理由から許可の発行を遅らせるケースもあるため、中央政府だけでなく地方自治体との関係構築も重要なリスクヘッジとなります。
まとめ
2026年の台湾再生可能エネルギー市場は、政府による強力な育成期間を経て、実力主義の競争段階へと移行しました。WTO紛争の解決により無理な国産化要件が撤廃され、プロジェクトの経済合理性を追求できる環境が整いつつあります。技術力と資金調達力を持つ日本企業にとって有利な展開と言えます。
一方でリスクの所在は変化しています。サプライチェーン規制という明確な課題から、土地利用規制の変更、行政訴訟、地域住民との合意形成といった、より複雑で管理の難しい法的リスクへと重心が移っています。フェーズ3.3以降の洋上風力発電では、ESGスコアが入札の勝敗を分ける重要な要素となるため、地域共生策などを法的なエビデンスとして蓄積していくことが求められます。
モノリス法律事務所はIT・クロスボーダー法務の専門性を活かし、椽智商務科技法律事務所は台湾現地の法律実務と当局対応の経験を活かして、日本企業の台湾進出をサポートします。現地法人の設立から、用地取得のデューデリジェンス、PPA契約の交渉、紛争解決に至るまで、両事務所が連携してワンストップで対応いたします。
河瀬 季
Toki Kawase
IT企業経営の経験を持つエンジニア出身の弁護士。東大院修了後、モノリス法律事務所を開設。上場企業からスタートアップまで顧問弁護士やCLOとして経営を支援する。特に台湾法務に精通し、専門チームを率いて現地法人設立から労務、知財戦略分野で日本企業の台湾進出を多角的にサポートしている。
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