台湾の就業ゴールドカード:高度人材向けビザのメリットと申請要件
グローバルビジネスの最前線において、国境を越えた高度人材の獲得競争は激化の一途をたどっています。地理的にも歴史的にも密接な関係を築いてきた日本と台湾の間では、半導体産業をはじめとする技術提携や市場開拓が加速しています。台湾への事業進出を考える日本企業にとって、台湾の出入国管理制度や就労資格に関する正確な理解は、事業成功の鍵を握る重要事項です。
台湾政府は2018年、従来の保守的な移民政策を転換し、優秀な外国人材を積極的に呼び込むための特別法として外国専門人材の招聘及び雇用に関する法律を施行しました。その中核をなす施策が就業ゴールドカード(就業金卡)制度です。この制度は従来の就労ビザという枠組みを超え、対象となる外国人に対してかつてない自由度と税制上の優遇、そして家族帯同に関する特権を付与する画期的な仕組みです。
本記事では、就業ゴールドカード制度の法的性質や申請要件はもちろん、日本の高度専門職ビザとの比較、実務上のメリット、最新の法改正やビザ取消事例に基づくコンプライアンス上の留意点まで網羅して解説します。
目次
台湾の就業ゴールドカードの法的構造と4つの機能
台湾の就業ゴールドカード(以下、ゴールドカード)は、単なる労働許可証ではありません。台湾政府が国の経済発展に寄与すると認めた特定専門人材に対して発行する、特別な法的地位を証明する統合IDカードです。法的には外国専門人材の招聘及び雇用に関する法律第8条に基づき発行されます。最大の特徴は、通常であれば個別に申請・取得が必要な4つの法的文書および許可が、1枚のカードに統合されている点にあります。
統合された4つの機能
ゴールドカードは4-in-1カードとも呼ばれ、就労許可、居留ビザ、外僑居留証(ARC)、再入国許可の機能を有しています。ゴールドカードの最も革新的な機能が就労許可です。通常の外国人就労者が取得する許可は、特定の雇用主に紐づけられており、その企業で働くことのみが許可されます。ゴールドカードに含まれる就労許可は個人に付与されるオープン・ワーク・パーミットです。
この法的性質により、保持者は申請時に台湾の雇用先が決まっている必要がありません。カードの有効期間内であれば行政への変更申請を行うことなく自由に転職が可能です。正規雇用に限らず、兼業、副業、フリーランスとしての活動、あるいは自ら法人を設立して代表者に就任することも認められています。
日本の在留資格制度と比較すると、その特異性が際立ちます。日本の技術・人文知識・国際業務などの就労ビザは、原則として所属機関ごとの活動に限定されます。転職する場合は就労資格証明書の取得が推奨され、活動内容が変わる場合は在留資格変更許可申請が必要です。日本の高度専門職2号になれば活動制限は大幅に緩和されますが、そこに至るには一定の居住歴や実績が必要です。台湾のゴールドカードは取得した初日から高度専門職2号以上の流動性と自由度が付与されます。
居留ビザは日本でいう査証に相当する機能です。通常、外国人が台湾に長期滞在するためには、在外公館で居留ビザを取得し、入国後に移民署で外僑居留証への書き換えを行う必要があります。ゴールドカードはこの居留ビザの機能を内包しているため、別途在外公館でビザ申請を行うプロセスが省略されます。
外僑居留証(ARC)は日本における在留カードに相当する外国人としての身分証明書です。台湾国内での生活において、銀行口座の開設、携帯電話の契約、健康保険の利用、オンラインショッピングの本人確認に至るまで、あらゆる場面で提示が求められます。ゴールドカード自体がこのARCとして機能するため、別途カードを携帯する必要はありません。
再入国許可により、カードの有効期間中(1年から3年)、回数制限なく自由に台湾を出入国できます。日本の実務では、みなし再入国許可制度が存在するため1年以内の再入国であれば手続きは不要ですが、それを超える場合は許可が必要です。台湾のゴールドカードは、カードの有効期限内であれば、どれだけ長期間海外に滞在していても自由に再入国できる権利を保証しています。
有効期間と更新の柔軟性
ゴールドカードの有効期間は、申請者の希望により1年、2年、または3年から選択できます。期間満了時には再度要件を満たすことで再申請が可能です。再申請の際は初回申請時と同様に専門性の審査が行われますが、台湾国内での活動実績も考慮される場合があります。
台湾のゴールドカード対象となる特定専門人材の要件

ゴールドカードを取得するためには、台湾政府が定める特定専門人材として認定される必要があります。この認定プロセスは、日本の高度専門職ポイント制と比較して、よりシンプルかつ現在の稼ぐ力を重視する傾向があります。
対象となる専門分野
現在、科学技術、経済、教育、文化・芸術、スポーツ、金融、法律、建築、国防、デジタルの10分野において特定専門人材の認定が行われています。各分野の審査はそれぞれを所管する省庁が行います。科学技術は国家科学及技術委員会、経済は経済部、教育は教育部、文化・芸術は文化部、金融は金融監督管理委員会、法律は法務部、建築は内政部営建署、国防は国防部、デジタルはデジタル発展部が担当します。
ビジネスパーソンに適用される経済分野の要件
多くの日本人経営者、駐在員、あるいはフリーランスの専門家にとって、最も申請のハードルが明確で利用しやすいのが経済分野です。この分野での認定要件には、学歴や職歴に関する基準のほかに、非常に明確な年収要件が存在します。
経済分野等における特定専門人材の認定では、学歴や資格だけでなく、申請者が国際的な労働市場において高い経済的価値を有しているかが重要な判断要素とされています。実務上は、過去の報酬水準が高いことを示すことで、高度な専門性や実績を有する人材であると評価されるケースが多く見られます。博士号や特定の国家資格を有していなくても、これまでのキャリアにおいて高い報酬を得てきた事実が、専門人材性を裏付ける重要な資料となります。
申請時には、これまでの職務内容や実績を示す資料に加え、過去の給与水準を証明する書類の提出が求められます。具体的には、直近数年分の給与証明書、源泉徴収票、給与明細等が用いられることが一般的です。これらの資料を通じて、申請者が継続的に高い報酬を得てきたこと、すなわち市場において高い評価を受けていることが審査の対象となります。将来の雇用予定や想定年収のみを示すだけでは足りず、過去の実績に基づく客観的な収入証明が重視される点には留意が必要です。
年収要件以外にも、半導体、バイオテクノロジー、金融、AIなどの重点産業において専門的な技術力や実務経験を有する場合、またはベンチャーキャピタルや多国籍企業において上級管理職としての経験がある場合にも申請が可能です。
台湾のゴールドカードと日本の高度専門職ビザの比較
日本の高度専門職ビザ制度と台湾のゴールドカード制度は、いずれも優秀な外国人材の獲得を目的としていますが、その認定アプローチには明確な違いがあります。台湾のゴールドカード制度では、申請者が有する現在の収入水準や専門分野における実績が重視されており、実務上は年収換算でおおむね300万NTD以上に相当する報酬水準を継続的に得てきたことを示すことで、学歴や年齢に左右されず特定専門人材として認定されるケースが多く見られます。
一方、日本の高度専門職ビザはポイント制を採用しており、学歴、職歴、年収、年齢、日本語能力など複数の要素を点数化し、その合計が70点以上に達することが原則的な要件とされています。そのため、高い年収を有していても、学歴や年齢、日本語能力などの要素によっては要件を満たしにくい場合があります。
就労の自由度について、台湾のゴールドカードは完全自由なオープン許可です。雇用主に紐づかず、フリーランス、起業、無職期間も滞在可能です。日本の高度専門職は原則として雇用主に紐づき、転職時は手続きが必要です。契約終了後3ヶ月以上無職だと在留資格取消の対象になり得ます。スポンサーについて、台湾のゴールドカードは不要で自己申請が可能です。日本の高度専門職は受入機関の署名等が必要です。
永住権への道について、台湾のゴールドカードは最短3年で永住権取得が可能です。日本の高度専門職は80点以上の場合は最短1年、70点以上の場合は最短3年です。日本のポイント制は若手研究者や日本語が堪能な人材にとっては有利ですが、学歴が高卒・大卒で日本語ができない高年収のベテラン実業家などには不利に働くことがあります。台湾の制度は学歴や語学力を問わず経済的実績のみでダイレクトに認定されるルートが用意されており、実力主義的なエグゼクティブやフリーランスにとって使い勝手が良いといえます。
台湾の就業ゴールドカードのメリット:税制優遇と家族帯同

ゴールドカードが単なるビザ以上の価値を持つ最大の理由は、台湾国内法に基づく強力なインセンティブにあります。これらは外国専門人材の招聘及び雇用に関する法律によって明文化されており、経済的メリットと生活の質の向上に直結します。
所得税の特別優遇措置
台湾で初めて就労する特定専門人材にとって、最も経済的インパクトが大きいのが所得税の減免措置です。適用条件は、台湾での居住が初めてであり、かつ給与所得が300万NTDを超える場合です。減免内容として、300万NTDを超える給与所得部分について、その50%が課税所得から除外されます。適用期間は最初の5年間です。たとえば年収が820万NTDの場合、優遇対象となる超過分は520万NTDであり、非課税となる金額は260万NTDです。実際の課税対象額は560万NTDとなり、ここからさらに基礎控除等が引かれます。高所得者ほど実効税率が劇的に下がります。
日本の所得税は累進課税であり、住民税と合わせると最高税率は約55%に達します。日本にも外国人研究者等への優遇や租税条約による短期免税はありますが、民間企業のビジネスパーソンに対してこれほど大規模かつ長期間の所得控除を行う制度は一般的ではありません。この優遇措置の適用を受けている期間中は、海外源泉所得について所得基本税額条例の適用が免除される場合があります。グローバルに資産を持つ富裕層にとってのタックス・プランニングの余地が広がります。
2021年の法改正により税優遇の適用期間が3年から5年に延長されました。現在議論されている改正案では手続きの厳格化が予想されています。毎年の確定申告時期(翌年5月末)に所定の手続きを行わなかった場合、その年の優遇措置が恒久的に失われる可能性があるとの指摘があります。税務申告の際は現地の会計士や税務専門家との連携が必須です。
家族帯同に関する特権:直系尊属の訪問ビザ
家族を大切にする中華圏の文化を反映し、ゴールドカード保持者の家族に対しても非常に寛容な制度となっています。特に親の帯同については、日本とは決定的な違いがあります。日本の場合、就労ビザを持つ外国人が本国の親を日本に長期帯同させることは原則として認められていません。高度専門職ビザであっても、7歳未満の子の養育や妊娠中といった極めて限定的な人道的事情がある場合にのみ、例外的に親の帯同が許可されます。
台湾の場合、ゴールドカード保持者の直系尊属(親・祖父母)は、最長1年間の訪問ビザを取得可能です。通常、訪問ビザは停留期間が短く設定されますが、ゴールドカード保持者の親族については複数回入国可能なマルチビザの発行や滞在期間の延長が明示的に認められています。高齢の親の介護が必要だが日本のビザが下りないため日本での就労を諦めるというケースは少なくありませんが、台湾であれば親を呼び寄せて同居しながら働くことが法的に可能です。
配偶者と未成年の子は、ゴールドカード保持者に付随して居留証を取得できます。近年の法改正により、配偶者や成人の子供が一定の条件下で就労許可を取得しやすくなるなど、家族全体の台湾定着を支援する方向で制度拡充が進んでいます。
国民健康保険への即時加入
通常、外国人が台湾の国民健康保険に加入するには、居留証を取得してから満6ヶ月間の台湾滞在実績が必要です。ゴールドカード保持者およびその扶養家族は、この6ヶ月の待機期間なしで即時に国民健康保険に加入できます。台湾の医療水準は世界的にも高く評価されており、医療費も日本と比較して安価です。移住直後から公的医療保険の恩恵を受けられることは、生活の安全保障として非常に重要です。
台湾の就業ゴールドカード申請プロセスと必要書類
申請手続きはデジタル化が進んでおり、基本的にすべてのプロセスをオンラインで完結させることが可能です。申請は内政部移民署が運営する外国専門人材オンライン申請プラットフォームを通じて行います。まずプラットフォームでアカウントを作成し、自身が該当する専門分野と具体的な資格条項を選択します。次にパスポートの写し(残存有効期間6ヶ月以上)、証明写真、資格証明書類(年収証明書、経歴書、学位記、在職証明書など)をアップロードします。書類が日本語の場合、中国語または英語の翻訳が必要となる場合があります。
審査は移民署による形式審査、労働部および各所管省庁による実質審査、海外からの申請の場合は外交部領事事務局による審査という流れで進みます。審査が進むとクレジットカード等での手数料支払いが求められます。手数料は国籍やカードの有効期間により異なりますが、概ね1,500NTDから3,500NTD程度です。審査通過後、パスポート提出通知書が発行されます。これを印刷し、パスポート原本を持参して指定の場所で本人確認を受けます。海外であれば台北駐日経済文化代表処などの在外公館、台湾国内であれば移民署サービスステーションで手続きを行います。手続き完了後、カードが発行され郵送または窓口で受領します。
公式情報では30日とされていますが、実際には追加書類の提出を求められるケースが多く、年収証明や経歴証明の解釈において当局とやり取りが発生することがあります。ビジネススケジュールには余裕を持ち、50日から60日程度を見込んでおくのが安全です。
台湾のゴールドカードにおけるリスク管理とコンプライアンス

ゴールドカードはオープン・ワーク・パーミットという強力な自由を与えますが、これは法を超越して何をしても許されるという意味ではありません。近年、著名なインフルエンサーがビザを取り消される事例が発生しており、コンプライアンス意識が不可欠です。
ケーススタディ:人気YouTuberのビザ取消事案
アメリカの人気YouTuberで「LeLe Farley」の登録名で活動する男性が、ゴールドカードを取得したにも関わらず、台湾への入国を拒否されビザを取り消された事例が大きく報道されました。同氏は2024年にゴールドカードを申請し承認されましたが、入国時に空港で入国拒否に遭いました。理由はカード取得前の2023年に観光目的で台湾に滞在していた際、現地の政治的なトークショーに出演し報酬を受け取っていたことが発覚したためです。
台湾の就業服務法第43条等は許可なき就労を厳しく禁じています。過去に違法就労の事実があった場合、ゴールドカードの適格性審査において不適格とみなされます。事後的に発覚した場合はカードが取り消され、このケースでは3年間の入国禁止処分を受けることになりました。
この事例から得られる教訓として、ゴールドカード取得後は自由に働けますが、取得前の活動も厳しくチェックされます。フリーランスであっても報酬を伴う活動はすべて就労です。観光ビザでの講演、出演、短期プロジェクト等は、たとえ少額の謝礼であっても違法就労とみなされるリスクがあります。外国人の政治活動への参加は国によっては非常に敏感な問題であり、本来の専門性を活かした業務以外の活動は入管法上のリスク要因となり得ます。
フリーランス・個人事業主の注意点
ゴールドカード保持者は特定の雇用主がいなくても滞在可能ですが、専門的な仕事に従事していることが制度の趣旨です。たとえば経済分野で取得したのに全く無関係な単純労働に従事した場合、次回の更新時に特定専門人材としての適格性を疑われる可能性があります。台湾国内で得た所得は当然ながら台湾で確定申告し納税する必要があります。オープンワークだからといって所得隠しが許されるわけではありません。特に前述の税制優遇を受けるためには、正確かつ適時の申告が不可欠です。
日本法人が留意すべき雇用のリスク
日本企業がゴールドカード保持者を雇用する場合、通常の就労ビザ取得サポートが不要であるため手続きは非常に簡便です。しかし労働法上の扱いに注意が必要です。ゴールドカード保持者であっても、台湾企業と雇用契約を結べば台湾の労働基準法が適用されます。解雇規制や残業代の規定などは日本法と異なる部分が多く、安易な契約解除は紛争の元となります。雇用契約なのか業務委託契約なのかを明確にする必要があります。ゴールドカード保持者はどちらの形態でも契約可能ですが、指揮命令関係の有無によって法的責任が異なります。
台湾進出を考える日本企業・経営者への提言
日本企業が台湾進出をする際、いきなり現地法人を設立し駐在員ビザを取得するのはコストと時間がかかります。まず経営者自身やエース級の社員がゴールドカードを取得し、個人として台湾に滞在して市場調査や人脈作りを行うことは極めて有効なエントリー戦略です。法人登記が完了していなくても就労許可があるため、合法的に営業活動を開始し契約締結を進めることができます。
コロナ禍を経て普及したリモートワークを活用し、日本の業務を継続しながら台湾に拠点を置く働き方にもゴールドカードは最適です。台湾は親日的であり治安も良く、日本との時差も1時間しかないため、日本本社との連携に支障をきたしません。長期滞在と税制優遇をセットで享受できるゴールドカードは、経営者層にはメリットが大きいといえます。ゴールドカードは個人申請が可能ですが、提出書類の選定、専門分野の選択、将来的な永住権取得や家族帯同を見据えた戦略立案には専門家の知見が役立ちます。万が一のトラブルに際しては現地の法律事務所との連携が不可欠です。
まとめ
台湾の就業ゴールドカードは、就労許可、居留ビザ、ARC、再入国許可を一体化した世界でも類を見ない利便性の高い制度です。日本のビジネスパーソンにとっては、雇用主に縛られないオープン・ワーク・パーミットによる圧倒的な自由度、年収300万NTD超の部分に対する50%非課税措置(5年間)という強力な税制優遇、親の長期訪問が可能という日本にはない特権、年収要件さえ満たせば複雑なポイント計算なしで認定されるスピードと明確さが大きなメリットです。
一方でその自由さを享受するためには、過去の渡航歴におけるコンプライアンス遵守や税務申告の正確な手続きが前提となります。自由には責任が伴うことを理解し、日本と台湾の法制度の違いを正しく把握した上で活用することが台湾でのビジネス成功の第一歩です。モノリス法律事務所はIT・ベンチャー法務の専門性を活かし、台湾の椽智商務科技法律事務所と密接に連携することで、皆様の台湾進出を法務面からバックアップいたします。
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