台湾における模倣品対策の最前線:税関差止と刑事摘発の実務

台湾における模倣品対策の最前線:税関差止と刑事摘発の実務

台湾は日本企業にとって極めて重要なビジネスパートナーであり、多くの日本製品が台湾市場で愛されています。しかし、その密接な経済関係の裏側には、模倣品や海賊版の流通という無視できないリスクが潜んでいます。かつては模倣品の製造拠点とされることもありました。しかし、現在の台湾はWTO加盟やTRIPS協定への準拠を経て、アジアでもトップクラスの知的財産権保護体制を構築しています。それでもなお、デジタル経済の進展に伴い、侵害の手口はより巧妙化しています。SNSや越境ECを悪用した小口輸入など、従来の水際対策だけでは捕捉しきれない事例が増加しています。

本記事では、台湾における模倣品対策の実務を解説します。特に、日本法とは大きく異なる刑事罰の積極的な活用と、TRIPS協定に基づき高度に整備された税関における水際対策の最新動向にも焦点を当てます。

台湾における知的財産侵害への刑事的アプローチ

台湾における模倣品対策が日本と最も大きく異なる点は、知的財産権侵害に対して強力な刑事摘発が頻繁に行われていることです。日本では、特許権や商標権の侵害は主に民事訴訟で解決されることが一般的です。一方、台湾では侵害行為が犯罪として構成され、警察による捜索や差押えが日常的に行われています。権利者は証拠の散逸を防ぎつつ、侵害者に強力なプレッシャーを与えることが可能です。

商標法における侵害の罪と「明知」の壁

台湾の商標法では、商標権侵害に対して3年以下の有期徒刑(懲役刑に相当)が科される可能性があり、実務上も刑事告訴が民事上の解決と並んで頻繁に活用されるため、非常にリスクの高い犯罪として認識されています。

特に実務上重要となるのが、模倣品を販売、あるいは販売目的で所持・陳列・輸出入する行為を処罰対象とする規定です。物理的な店舗だけでなく、電子メディアやインターネットを通じた販売行為も明記されています。ECサイトでの模倣品販売も捜査の対象となります。

日本企業が留意すべきは、犯罪の成立要件として行為者の主観的な意図が厳格に問われる点です。条文上、侵害商品を販売する罪が成立するには、行為者がそれが侵害商品であることを明知(明らかに知っていること)している必要があります。日本の法実務における未必の故意(模倣品かもしれないと思って販売した場合も罪になる)よりも、台湾の裁判所は認定に慎重な姿勢を見せる傾向があります。

近時の智慧財産及商業法院の判決例でも、被告人が侵害品を販売していたという客観的事実のみでは直ちに故意が認定されず、商標の周知・著名性、被告の業態や経験、仕入経路、価格設定、警告書受領後の対応などの具体的事情を総合考慮して判断する姿勢が示されています。実務上は、専門的な取扱業者であるか否か、正規品と比較して不自然に低廉な価格であったかといった事情が重視される傾向があります。したがって、権利者としては単なる侵害事実の立証にとどまらず、相手方が侵害であることを認識していたと推認させる客観的証拠をどれだけ収集できるかが、刑事責任追及の成否を左右します。

台湾著作権法改正と非親告罪化の拡大

著作権分野においては、台湾のCPTPP加入に向けた法整備が進み、刑事手続きの開始要件が大きく変更されました。従来、著作権侵害は権利者が告訴しなければ起訴できない親告罪が原則でした。改正により、一定の重大な侵害行為については告訴を待たずに検察官が起訴できる非親告罪(公訴罪)へと移行しています。

改正後の著作権法では、営利目的で著作物を複製・公衆送信・頒布するなど一定の重大な侵害行為について、侵害の規模や権利者に生じた損害額等が法定基準を超える場合には、告訴を待たずに起訴できる非親告罪として取り扱われる類型が設けられています。損害額の算定にあたっては、侵害品の販売額のみならず、正規ライセンス料相当額や逸失利益なども考慮要素となります。特に組織的かつ継続的に海賊版を流通させる事案では、重大侵害に該当する可能性が高く、デジタルコンテンツ分野における抑止力強化が図られています。

罪名根拠法性質主な特徴と要件
商標権侵害罪商標法非親告罪商標の無断使用。3年以下の懲役など。
侵害商品販売罪商標法非親告罪販売目的の所持・陳列。明知(悪意)の立証が必要。
著作権侵害(複製)著作権法原則親告罪営利目的の複製。重大な侵害(損害100万NTD以上等)は非親告罪化。
著作権侵害(頒布)著作権法原則親告罪侵害物の頒布。同上で非親告罪化の可能性あり。

台湾税関における水際対策の実務

台湾税関における水際対策の実務

台湾の税関(財政部関務署)は、模倣品の流入・流出を阻止するための重要な防波堤です。台湾の水際対策は、権利者が事前に権利情報を登録する提示登録制度と、税関職員が職権で行う差止が連携して運用されています。

提示登録制度の活用と写真判定の導入

日本企業が台湾税関での取締りを効果的に行うためには、提示登録(Recordation)の手続きが不可欠です。自社の商標権や著作権の情報を税関のデータベースにあらかじめ登録しておく制度で、税関職員が疑わしい貨物を発見した際に、即座に権利者へ照会できる体制を整えます。登録に際しては、権利証明書だけでなく、真正品と模倣品を見分けるための詳細な真贋判定マニュアルや、製品の高解像度写真データの提供が求められます。近年では、税関職員がタブレット端末等でこれらのデータを参照し、現場で迅速に真贋を判断できるよう、デジタルデータでの提出が推奨されています。

近年の運用改善により、税関での侵害認定プロセスにおける権利者の負担が軽減されました。従来は、疑義貨物が発見された場合、権利者は極めて短時間のうちに現地へ赴くか、詳細な鑑定結果を提出する必要がありました。現在では、税関から送付される疑義貨物の写真ファイルを確認し、電子的手段で初期的な鑑定結果(侵害の有無)を回答することが可能です。日本にいる知財担当者が遠隔で迅速に判断を下せるようになり、実務的な利便性が大幅に向上しました。

越境ECと小口貨物への対応

現在の税関取締りにおける最大の課題は、越境ECを通じた小口貨物の急増です。かつてのようなコンテナ単位での大規模な模倣品密輸は減少しました。代わりに個人輸入を装った郵便小包や宅配便による少量の模倣品流入が増加しています。全数検査することは物理的に困難ですが、台湾税関はX線検査装置の高度化やリスク分析システムの導入により、疑わしい貨物のピンポイント検査を強化しています。

財政部関務署が公表している知的財産権保護統計によれば、2023年に税関で差し止め・押収された商標権侵害物品は約3万点超に達し、推計市場価格は約5億ニュー台湾ドル(NTD)規模とされています。押収品目は高級ブランド品に限らず、スマートフォン関連製品、医薬品、日用品など多岐にわたります。一定規模以上または悪質性が高い案件は、商標法違反として警察・検察に移送され、刑事事件として処理されるのが一般的です。

台湾警察による摘発と捜査の実際

台湾には「内政部警政署保安警察第二総隊刑事警察大隊」、通称「保二(IPR警察)」と呼ばれる、知的財産犯罪を専門に取り締まる警察組織が存在します。高度な専門知識を有しており、サイバー犯罪捜査にも長けています。

テストバイとおとり捜査の適法性

刑事摘発を成功させるためには、確実な証拠が必要です。そのために行われるのがテストバイ(購入調査)です。調査員や捜査官が一般客を装って商品を購入し、現物を入手して真贋鑑定を行います。相手が業として販売している事実も確認します。台湾の法実務では、既に犯罪の意思を持っている者に対して販売の機会を提供する形の、いわゆる機会提供型のおとり捜査は適法とされています。そこで得られた証拠は裁判でも有効に採用されます。

日本企業の障壁となる委任状の認証手続き

日本企業が台湾で刑事告訴を行う際、実務上最も大きなハードルとなるのが委任状(Power of Attorney:POA)の認証手続きです。台湾の捜査機関や裁判所は、外国法人が告訴を行う場合、その委任状が真正なものであるかを厳格に確認します。

日本国内の公証役場で会社代表者が委任状に署名し公証人の認証を受けた後、さらに台北駐日経済文化代表処(事実上の台湾大使館・領事館)で認証印(リーガライゼーション)を受ける必要があります。このプロセスには通常数週間を要します。緊急の摘発が必要なタイミングで書類が間に合わないという事態が起こり得ます。多くの日本企業は、現地の信頼できる法律事務所にあらかじめ包括的な委任状を預け、認証済みの原本を常備しておくという対策をとっています。

台湾の智慧財産及商業法院(IP裁判所)の役割

台湾の智慧財産及商業法院(IP裁判所)の役割

検察官によって起訴された事件は、原則として智慧財産及商業法院(Intellectual Property and Commercial Court:IPCC)が審理します。知的財産案件の専門性と迅速性を確保するために設置された専門裁判所で、民事・刑事・行政の三つの訴訟を一括して扱うことができる世界的にも珍しい「三合一」システムを採用しています。

民刑一致の審理と附帯民事訴訟

IP裁判所の最大の特徴は、同一の紛争に関する刑事事件と民事事件を、同じ裁判官が審理できる点にあります。判断の矛盾を防ぐとともに、審理のスピードアップが図られています。日本企業にとってメリットが大きいのが刑事附帯民事訴訟という制度です。刑事事件の起訴後に、被害者である権利者が同じ刑事手続きの中で損害賠償を請求できます。通常の民事訴訟を別途提起する場合に比べて、高額な印紙代を節約できます。刑事捜査で収集された証拠をそのまま民事賠償の根拠として利用できるため、立証の負担も大幅に軽減されます。

司法判断における最近の傾向

近年の判決傾向として、商標権侵害における故意の認定が厳格化していることは前述の通りです。一方で指示的フェアユースに関する判断基準も明確化されています。互換品ビジネスにおいて「○○用(○○対応)」として他社の商標を使用する場合、消費者に混同を与えず、かつ商品の説明に必要不可欠な範囲であれば、商標権侵害には当たらないとする判断が示されています。純正品ビジネスを展開する企業にとっては、互換品業者への権利行使が制限される可能性があるといえます。より緻密な法的戦略が求められるようになっています。

まとめ

台湾における模倣品対策は、法制度と執行体制の両面で非常に高度化しており、日本企業にとっても活用しやすい環境が整いつつあります。税関におけるデジタル写真判定の導入や、IP裁判所における民事・刑事の統合的な審理は、迅速な権利救済を可能にする強力なツールです。一方で、刑事手続きにおける故意の立証ハードルの高さや、委任状認証の手間といった台湾特有の課題も依然として存在します。

効果的な対策のためには、侵害が発覚してからの対症療法だけでなく、平時からの準備が不可欠です。商標権・著作権の税関登録、現地代理人を通じた市場監視、そして万が一の際に即座に動けるよう認証済み委任状を常備しておくことが重要です。単に警察に任せるだけでなく、警告書の送付によって相手方の悪意を顕在化させ、刑事・民事を連動させた戦略的な法的措置を講じることが、ブランド価値を守るための鍵となります。

モノリス法律事務所は、IT関連法務や知的財産権分野に特化した専門性を有し、台湾の法律事務所である椽智商務科技法律事務所と強固な連携体制を構築しています。台湾の弁護士資格を持つ外国人弁護士も在籍しており、現地での法人登記からビザ取得、そして本記事で解説したような複雑な模倣品対策や訴訟実務に至るまで、日本語でのシームレスなサポートが可能です。台湾ビジネスにおける法的リスクの低減と知財戦略の構築において、貴社の強力なパートナーとなり得ます。

監修

河瀬 季

Toki Kawase

IT企業経営の経験を持つエンジニア出身の弁護士。東大院修了後、モノリス法律事務所を開設。上場企業からスタートアップまで顧問弁護士やCLOとして経営を支援する。特に台湾法務に精通し、専門チームを率いて現地法人設立から労務、知財戦略分野で日本企業の台湾進出を多角的にサポートしている。

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