化粧品を台湾へ輸出する際の法規制|化粧品衛生安全管理法の改正ポイントと実務対応
台湾は日本の化粧品メーカーにとって、地理的な近さと日本製品への高い信頼度から、最も重要な輸出市場の一つです。しかし、この有望な市場への参入にあたっては、現在進行中の大規模な法規制改革を見過ごすことができません。
2019年7月1日に施行された化粧品衛生安全管理法は、従来の化粧品衛生管理条例を全面的に刷新しました。改正の本質は、事前許可制から自主管理制への移行にあります。行政による事前審査に依存していた安全性担保の仕組みを、企業自身による科学的立証と事後監視へと転換させるものであり、規制哲学の根本的な変更といえます。
本記事では、台湾の新しい化粧品衛生安全管理法の規制について解説します。日本企業にとって最大の関門となる製品情報ファイル(PIF)制度、全面的な製品登録義務化、日本の薬機法とは異なる独自の広告規制リスクについて、実務的な対応策を提示します。
目次
台湾化粧品規制の歴史的転換と新制度の核心
かつて台湾の化粧品行政は、1973年に公布された化粧品衛生管理条例に基づいて運用されていました。旧法制下では、化粧品は一般化粧品と含薬化粧品に分類され、後者に対しては厳格な事前審査登録制度が存在しました。事業者は製品を販売する前に処方や試験データを衛生福利部に提出し、許可証を取得する必要がありました。そのため、新製品のタイムリーな市場投入が阻害される要因となっていました。
欧州連合(EU)がPIF制度を通じた企業責任の明確化を打ち出したことを受け、台湾当局も国際的な規制調和を目指して法改正に着手しました。新法である化粧品衛生安全管理法は、特定用途化粧品という区分の廃止、製品登録制度による情報透明性の確保、PIF制度による安全性確保の責任移行を基本理念としています。
この改正により、行政リソースは個別の審査から市場流通後の監視へとシフトしました。日本企業にとっては、許可を取得すれば完了という考え方を改める必要があります。製品ライフサイクルを通じて常に安全性を説明できる状態を維持することが求められます。
台湾における特定用途化粧品の廃止と日本法との比較

日本企業が最も留意すべき点は、日本と台湾の規制フレームワークの間に生じた非対称性です。日本では依然として化粧品と医薬部外品の区分が存在し、美白や殺菌などの効能を持つ製品は医薬部外品として厚生労働省の承認が必要です。
一方、台湾では新法に基づき、この区分が段階的に消滅します。かつての含薬化粧品は特定用途化粧品と名称変更された後、最終的にその区分自体が廃止され、一般化粧品に統合されます。
日本と台湾における製品カテゴリーの違い
日本で医薬部外品として扱われる製品であっても、台湾では一般的な化粧品と同様の法的枠組みで管理されることになります。
保湿クリームは、日本では化粧品、台湾でも化粧品(General Cosmetic)として扱われます。日焼け止め(SPF/PA)は、日本では化粧品または医薬部外品ですが、台湾では化粧品として扱われます。染毛剤、薬用美白美容液、制汗剤は、日本ではいずれも医薬部外品ですが、台湾ではすべて化粧品として扱われます。
この変更は規制緩和のように見えますが、実務上は承認申請資料の代わりにPIFというさらに包括的な技術文書の整備が求められます。参入障壁はむしろ高まったともいえるでしょう。
台湾における段階的施行スケジュール
特定用途化粧品の廃止とPIF義務化は、市場の混乱を避けるために段階的に実施されています。
2024年7月1日には、旧・特定用途化粧品(日焼け止め、染毛剤、パーマ剤、制汗・制臭剤、家庭用歯のホワイトニング剤)について、事前許可(査験登記)が廃止されました。製品登録とPIF整備が必須となっています。
2025年7月1日には、特定カテゴリーの一般化粧品(乳幼児用、唇用、目元用、非薬用歯磨き粉、うがい薬)について、製品登録とPIF整備が必須となります。粘膜に触れる製品や感受性の高い対象への管理が強化されます。
2026年7月1日には、上記以外のすべての一般化粧品(洗顔料、化粧水、乳液など)について、製品登録とPIF整備が必須となります。工場登記免除の小規模事業者が製造する固形手作り石鹸のみ免除されます。
このスケジュールにより、2026年7月時点で台湾市場に流通するほぼすべての化粧品にPIFが義務付けられます。日本企業は自社製品がどのフェーズに該当するかを確認し、施行日の少なくとも1年前から準備を開始する必要があります。
台湾における製品登録制度の実務と義務者
化粧品衛生安全管理法第4条は、製品を市場に供給する前に、中央主管機関が構築した化粧品製品登錄平台システムへの登録を義務付けています。これはEUのCPNPと同様の仕組みであり、当局が市場にどのような製品が出回っているかを把握し、事故発生時のトレーサビリティを確保することを目的としています。
登録を行えるのは台湾国内に拠点を有する事業者のみです。輸入の場合は輸入業者が登録義務者となります。日本企業が台湾へ輸出する場合、自社が台湾に現地法人を持たない限り、現地の販売代理店やディストリビューターが法的な登録義務者となります。
登録システムへの入力事項と日本企業への影響
登録システムには、製品名や用途、製品類型、責任業者情報に加え、全成分名称(INCI名等)を入力する必要があります。ただし、すべての成分について一律に具体的な配合濃度を登録・公開する制度ではありません。成分の濃度入力は、法令上濃度規制が設けられている特定成分など、主管機関が求める範囲に限定されます。
そのため、日本の医薬部外品のように一部成分を「適量」として管理している場合であっても、直ちに全成分の詳細配合比率を開示する義務が生じるわけではありません。ただし、製品情報ファイル(PIF)においては安全性評価の観点から成分濃度情報が必要となるため、輸入業者との間では、PIF作成・保管に関する役割分担と秘密保持義務を明確に定めておくことが重要です。
なお、製品登録の有効期間は3年間であり、期間満了前3か月から更新申請を行うことが可能です。継続販売を予定している製品については、更新期限を見据えた管理体制の構築が不可欠となります。
台湾の製品情報ファイル(PIF)制度の徹底解説
PIF(Product Information File)制度は、今回の法改正の核となる部分です。これは単なる書類作成作業ではありません。その製品がなぜ安全といえるのかという論理的な説明を体系的にまとめた技術文書群です。PIFは、製品が市場にある限り、また販売終了後も一定期間、輸入業者の住所地に保管されなければなりません。衛生当局による立ち入り検査や提出命令があった際に、即座に提示できる状態が求められます。
PIFに必要な16項目
化粧品製品情報ファイル管理弁法に基づき、以下の16項目を中国語または英語で整備する必要があります。
基本情報として、第1項から第4項では、製品基本資料、登録完了証明書、全成分名称および各含有量、外装・容器・ラベル・説明書が求められます。製造・使用に関して、第5項から第8項では、GMP適合証明(ISO 22716等)、製造方法およびプロセス、使用方法・部位・用量、使用上の副作用記録が求められます。
物理化学・微生物に関して、第9項から第13項では、物理的および化学的特性、成分の毒性資料、安定性試験報告書、微生物測定報告書、防腐効力試験報告書が求められます。機能・安全に関して、第14項から第16項では、機能評価証明資料、容器と製品の適合性資料、安全性評価結論および署名が求められます。
安全資料署名者(SA)の要件
第16項の安全性評価結論はPIFの核心部分であり、安全資料署名者(SA:Safety Assessor)による署名が必須です。SAには、医学、薬学、毒性学などの関連学位に加え、台湾の中央主管機関が指定するトレーニング課程の修了が求められます。日本国内の評価者がそのまま台湾のSAとして認められるわけではありません。実務上は台湾現地の有資格者や第三者認証機関に評価を依頼する必要があります。
GMP適合証明について
第5項のGMP適合証明については、国際規格であるISO 22716の認証書が最も一般的かつ強力な証明となります。日本の工場がISO認証を持っていない場合、自己宣言書に加えて詳細な製造管理基準書を添付する等の代替措置が必要になる場合があります。ただし、TFDAはISO 22716を強く推奨しています。
台湾における表示・広告規制と行政処分の実態

製品容器または外装には、中国語(繁体字)で製品名称、用途、使用法、全成分、製造業者または輸入業者の名称などを表示しなければなりません。全成分表示はINCI名での記載が可能ですが、その他の情報は繁体字での記載が必須です。
広告規制の概要
広告においては、虚偽・誇大および医療効能の標榜が厳しく禁止されています。日本の薬機法と同様、この境界線は非常に厳格です。違反した場合は高額な罰金が科される可能性があります。虚偽・誇大広告には4万から400万台湾ドルの罰金が、医療効能の標榜には60万から500万台湾ドルの罰金が規定されています。
日本企業が陥りやすい表現上のリスク
現地の行政処分事例を分析すると、日本企業が陥りやすい表現上のリスクが浮かび上がります。たとえば、「塗るボトックス」という表現は、ボトックスが医薬品や医療行為を連想させるため不可とされています。「細胞再生」や「遺伝子修復」といった表現も、化粧品の定義である美化、清潔、保護を逸脱し、医療的な細胞レベルの作用を標榜しているとして処罰の対象となります。「シワを消す(除皺)」という表現も、化粧品で可能なのはシワを目立たなくする程度であるため、誇大または医療効能とみなされます。
日本の広告表現をそのまま翻訳するのではなく、必ず現地の規制用語に照らし合わせる必要があります。安全な表現に書き換えるトランスクリエーションの作業が不可欠です。
台湾化粧品規制における違反時の罰則とリスクマネジメント
化粧品衛生安全管理法の罰則は、旧法時代よりも大幅に強化されています。登録義務やPIF整備義務に違反した場合、1万から100万台湾ドルの罰金が科されます。期限内改善命令に従わない場合は連続処罰や販売停止、製品回収命令が出される可能性があります。水銀や鉛などの禁止成分を配合した場合は、2万から500万台湾ドルの罰金に加え、健康被害が生じた際には刑事責任を問われる可能性もあります。
輸入業者との契約上の留意点
法改正により、台湾の輸入業者の法的責任と業務負担は大幅に増加しました。日本企業としては、輸入業者との契約において、PIF作成や維持のコスト負担、PIFデータの秘密保持、契約終了時のPIFの扱いなどを明確に定めておく必要があります。2026年の完全施行に向け、安定性試験やSA評価の期間を考慮し、輸出予定日の1年前からプロジェクトを開始することが推奨されます。
まとめ
台湾の化粧品規制は、事前許可制からPIFに基づく自主管理制へと大きく舵を切りました。特定用途化粧品の廃止と全製品へのPIF義務化は、日本企業にとって一時的な負担増となる可能性があります。しかし、長期的には科学的データに基づく品質と安全性を証明する機会ともなり得ます。
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