台湾の食品輸入規制:TFDA登録とラベル表示の厳格なルール
台湾の食品市場は、地理的な近さと親日的な国民性から、日本企業にとって重要な輸出先です。しかし参入にあたっては、アジア圏でも屈指の厳格さを誇る食品安全衛生管理法への対応が求められます。台湾政府は過去の重大な食品安全事案を受け、輸入食品に対する水際対策を大幅に強化してきました。
その中心的役割を担うのが衛生福利部食品薬物管理署(TFDA)です。輸入業者の登録制度である非登不可の徹底、輸入時の三段階サンプリング検査、繁体字中国語ラベルの表示義務など、多層的な規制網が敷かれています。
2025年には、日本産食品に対する放射能検査報告書や産地証明書の提出義務が撤廃されました。ただし、これは日本特有の追加規制がなくなったに過ぎません。台湾国内法が求める安全基準やラベル規定は、依然として日本より厳格な側面を多く有しています。食品添加物のポジティブリストの差異、日本語ラベルへの上貼りに関する条件、広告表現と見なされかねない商品名称の選定など、実務上の留意点は多岐にわたります。
本記事では、台湾における食品輸入の法的枠組みを網羅し、日本企業が遵守すべき実務上の要点を解説します。
目次
台湾の食品安全衛生管理法の基本構造
台湾における食品の安全と衛生を統括する最上位の法律は食品安全衛生管理法です。食品の安全と衛生を確保し、国民の健康を保護することを目的として、食品、食品添加物、食品用洗剤、容器や包装に至るまで広範な規制対象を定めています。
省庁横断的な食品安全会報の存在
台湾の規制体系で特筆すべきは、中央主管機関である衛生福利部の下に、行政院長を召集人とする食品安全会報が設置されている点です。この組織は省庁横断的な連携を強化し、国家レベルの食品安全リスク評価と管理措置の策定を担っています。同会報は定期的に開催され、食安政策の監視、推進、調査に関する調整が行われます。
日本では食品安全委員会や厚生労働省、農林水産省がそれぞれの役割を分担しています。一方、台湾では行政院(日本の内閣に相当)が直接主導する食品安全会報が存在します。台湾政府が食品安全を国家安全保障に準ずる重要事項と位置づけていることの表れといえるでしょう。
予防原則の明文化
同法第4条では予防原則が明文化されています。重大または予期せぬ食品安全事案が発生した場合、主管機関はリスク評価の結果が完全に出揃う前でも、特定製品の輸入制限や市場からの回収、没収、廃棄などの措置を講じることができます。この原則に基づき、台湾の執行当局は疑わしい食品に対して非常に迅速かつ厳しい対応を取る傾向があります。
台湾の食品業者登録制度:「非登不可」の義務化

台湾で食品の輸入、製造、加工、販売、飲食業を営む全ての事業者は、食品安全衛生管理法第8条第3項に基づき主管機関への登録が義務付けられています。この登録システムは食品業者登録プラットフォーム、通称「非登不可(Fadenbook)」と呼ばれています。
登録対象は法人だけでなく、一定の売上規模を持つ個人事業者も含まれます。登録を完了せずに営業を継続した場合、第48条に基づき3万台湾ドル以上300万台湾ドル以下の過料が科される可能性があります。進出初期段階で確実に完了させなければなりません。
登録は原則としてオンラインで行われ、台湾の工商憑証(ビジネス認証カード)や企業責任者の自然人憑証(マイナンバーカードに相当)、登録済みの健保カードが必要です。
手続きはまず工商憑証等を用いたシステムへのログインから始まります。カードリーダーとPINコードが必要となります。次に報告人(担当者)情報を入力し、メールの受信確認を行います。続いて基本資料を登録しますが、会社登記や税籍登記との一致を確認することが重要です。その後、輸入業、販売業、製造業等から該当する営業類別を選択し、倉庫や店舗ごとの住所と面積を含む営業拠点情報を登録します。最後に確認・送信を行い、登録番号の発行を確認して完了です。
輸入業者の場合、取り扱う製品のカテゴリーや倉庫の保有状況など詳細な情報入力が求められます。特に重要なのは、毎年7月に実施される登録情報の定例確認(年度申報)です。これを怠ると登録の有効性が失われ、通関時に輸入業者としての資格が確認できないとして荷揚げを拒否されるリスクがあります。
食品業者登録プラットフォームの詳細は、TFDAの公式ウェブサイト(英語)で確認できます。
台湾における輸入食品の水際検査メカニズム
台湾に輸入される食品は、全て食品安全衛生管理法に基づく「食品及び関連製品輸入査験弁法」に基づく検査の対象となります。検査は書類審査、現場検査(官能検査)、臨床検査(ラボ分析)の三つで構成されています。
台湾の輸入検査で最も特徴的なのは、過去の違反履歴や製品リスクに基づいた段階的な検査率の設定です。初めて輸入する製品やリスクが低いとされる製品には2%から10%の一般ランダム検査が適用されます。過去に違反事例がある品目や特定の監視対象には20%から50%の強化ランダム検査となります。連続して違反が発生した場合や重大なリスクが懸念される場合は100%のロット毎検査が命じられます。
日本の輸入届出制度と比較して、台湾のシステムは違反者に対するペナルティが非常に明確です。一度でも残留農薬基準値を超えるなどの違反が発見されると、強化ランダム検査へと格上げされます。さらに違反が続くと全量検査となり、検査結果が出るまで貨物を保税倉庫等に留め置く必要が生じます。保管料の増大や賞味期限の短縮といったビジネスリスクを招くことになります。
また、2018年からは水産物や乳製品、2019年からは卵製品や動物性油脂など、特定の系統的検査の対象品目が指定されています。これらは輸出国の衛生管理体制そのものが台湾側の要求を満たしていることが前提となります。台湾の査験体制は単なる現物検査から、輸出国の製造現場の管理にまでその範囲を広げているのが現状です。
台湾における日本産食品の輸入規制撤廃(2025年11月)

2011年の福島第一原発事故以降、台湾は日本産食品に対して世界でも類を見ないほど厳しい制限を課してきました。福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産食品の一部輸入停止に加え、それ以外の都道府県産を含む全食品に対する産地証明書の要求、特定品目に対する放射性物質検査報告書の添付義務がありました。
2025年11月21日付で、これらの日本産食品に対する特有の輸入規制は全面的に撤廃されました。産地証明書と放射能検査報告書の添付義務がなくなり、福島等5県産食品も通常の輸入査験品目として扱われるようになりました。
この緩和措置により日本企業の輸出実務は大幅に簡略化されました。ただし同時に、日本産だからといって特別視されず、一般の輸入食品と同じ厳格な基準が適用されることも意味します。産地証明書が不要になっても、原材料のトレーサビリティ管理を緩めてよいわけではありません。食品安全衛生管理法に基づく一般的な衛生基準への適合は引き続き厳格に審査されます。規制撤廃に関するTFDAの公式プレスリリースは、以下のURLから確認できます。
台湾の中文ラベル表示ルール:食品安全衛生管理法第22条
台湾で販売される全ての包装食品には、食品安全衛生管理法第22条に基づき繁体字中国語による表示が義務付けられています。日本の食品表示法と比較して、台湾のルールはより細かく、一字一句の不一致も認めない傾向にあります。
必須表示項目と記載のポイント
品名は製品の本質を表す名称である必要があります。特定の成分を強調する名称を用いる場合、その成分の含有量についても言及が求められることがあります。内容物名称は2種類以上の混合物の場合、含有量の多い順に記載しなければなりません。注意すべきは複合原材料の展開です。例えばマヨネーズが原材料に含まれる場合、台湾ではその構成成分(食用油、卵、酢、食塩等)を全て括弧書き等で展開して表示することが原則として求められます。
食品添加物名称は、台湾の食品添加物使用範囲及び限量並びに規格標準で定められた公定名称または通用名称を使用する必要があります。日本で一般的な「着色料(赤102)」といった簡略表記ではなく、公定名称を正確に記載しなければなりません。製造業者または国内責任業者については、名称、電話番号、住所の記載が必須です。輸入食品の場合、台湾国内で責任を負う国内責任業者(輸入商や販売代理店)の情報を明記する必要があります。
原産地は製品の最終加工地を表示します。複数の国の原料を混合している場合、含有量順に産地を表示することが求められるケースもあります。有効日付については、台湾では保存期間よりも具体的な期日の表示が重視されます。表示形式は西暦年月日が一般的ですが、製品特性に応じて日を省略できる場合もあります。
フォントサイズと視認性の規定
台湾のラベル表示において、フォントサイズは重要な審査項目です。原則として文字の長さおよび幅は2ミリメートル以上でなければなりません。ただし包装の最大表面積に応じて例外があります。表面積が80平方センチメートル未満の場合、品名、業者名、有効日付以外の項目については2ミリメートル未満のフォント使用が許容されます。
表面積が20平方センチメートル未満の小包装食品については、品名、有効日付、国内責任業者、原産地、アレルゲン警告以外の項目は現物への表示を省略し、QRコードによる電子的開示に替えることができます。QRコードによる開示を選択する場合は、単にコードを載せるだけでなく「スキャンして製品情報を取得してください」といった案内文を添えることが義務付けられています。
台湾における日本語ラベルへの上貼りと広告規制

多くの日本企業は、日本国内向けパッケージに中文ラベルを上貼りして台湾へ輸出することを検討します。台湾の法律上、上貼りは認められていますが、いくつかの厳格な条件があります。
第一に、上貼りラベルは容易に剥がれないものでなければなりません。単に紙のシールを貼っただけでは、輸送中の摩擦や消費者の意図的な剥離によって情報が失われる可能性があります。強力な粘着力を持つ素材の使用が推奨されます。
第二に、元の日本語ラベルの内容が台湾の法規に抵触する場合、物理的に隠蔽するか完全に修正しなければなりません。食品安全衛生管理法第19条は、食品の標示、宣伝、広告において不実、誇張、誤解を招くおそれのある内容を禁止しています。
特に注意が必要なのは医療的効能の示唆です。健康食品としての認証を受けていない一般食品が、特定疾病の予防や治療、身体機能の改善を示唆する表現は、第28条違反として多額の罰金対象となります。また「最高」「唯一」などの誇大表現も、客観的証明が困難な主観的かつ独占的な表現として、不実・誇張とみなされるリスクが高いといえます。
日本語ラベルにこれらの表現が含まれている場合、中文ラベルでその上を完全に覆い隠し、消費者が元の不適切な表現を確認できないようにしなければなりません。消費者が簡単に剥がして元の表示を見られる状態であれば、改善がなされていないと判断され処罰対象となります。
台湾の食品添加物ポジティブリストと日本基準との違い
食品添加物に関する日台間の基準の差異は、輸入査験で不合格となる最大の要因の一つです。台湾は添加物に対して厳格なポジティブリスト制度を採用しており、許可されていない添加物の使用は微量であっても全量廃棄または積戻しの対象となります。
名称の厳密性について、台湾では添加物の機能名だけでなく物質の具体的名称を併記することが基本です。日本のように「香料」という一括名称だけで済ませることはできません。成分が化学的なモノマーであれば食品添加物として、天然由来であれば食品原料として個別に精査されます。
使用範囲と限量についても違いがあります。日本で許可されている添加物であっても、台湾では特定の食品カテゴリーにのみ使用可と制限されている場合があります。例えば特定の着色料や甘味料について、日本では全ての食品に使用可(上限あり)であっても、台湾では飲料には不可といった規定が存在することがあります。
残留農薬についても、台湾の農薬残留基準に含まれていない農薬が検出された場合、検出限界値以下であることが求められます。日本で認可されている農薬であっても、台湾側にその基準値が存在しなければ輸入は認められません。実務上の対策として、製品の配合を台湾の食品添加物使用範囲及び限量並びに規格標準と一項目ずつ照らし合わせるリーガルチェックが不可欠です。
台湾の食物アレルゲン表示義務

台湾政府は消費者の知る権利と健康保護を重視し、アレルゲン表示義務を段階的に拡大してきました。2025年現在、11カテゴリーに属する製品またはその成分が含まれる場合、アレルゲン警告の表示が義務付けられています。
対象となるのは、甲殻類(エビ、カニ等)、マンゴー、ピーナッツ、牛乳・羊乳およびその製品、卵およびその製品、堅果類(アーモンド、カシューナッツ等)、芝麻(ゴマ)、麩質(グルテン)穀物(小麦、大麦、ライ麦等。酒類は除外される場合あり)、大豆(精製油等は除外される場合あり)、魚類、亜硫酸塩(10mg/kg以上の残留がある場合)です。
表示方法は「本製品には○○が含まれています」または「本製品には○○が含まれており、アレルギー体質の方には適していません」といった形式が一般的です。日本のアレルゲン表示(特定原材料7品目+21品目)とは項目数も定義も異なるため、日本の表示をそのまま転載することは法的リスクを伴います。
台湾の裁判例から見る食品規制違反への厳しい判断
台湾の裁判所は、食品業者が負うべき注意義務を非常に高く設定しており、法令違反に対しては厳しい判断を下す傾向にあります。
輸入申告の誠実義務に関する判例
最高行政法院101年度(西暦2012年)判字第926号では、インドネシアから輸入された発酵野菜果汁を、輸入業者が別の品目として申告したことが問題となりました。検査の結果、当該貨物には6.715%のアルコールが含まれており、台湾の酒類輸入規制の対象となる私酒に該当すると判断されました。
裁判所は、輸入業者はその専門知識に基づき輸入物品の性質を正確に把握し誠実に申告する義務があると指摘しました。「加工原料だと思っていた」という主張も、客観的にアルコール分が含まれている以上、規制逃れを目的とした虚偽申告とみなされました。貨物価格と同額の17万6,135台湾ドルの過料と貨物没収が支持されています。
産地表示の不実と過失に関する判例
最高行政法院107年度(西暦2018年)判字第732号では、輸入貨物の産地が実際の生産地と異なる国として申告されていた事案です。輸入業者は「仕入先からの書類を信じていただけで故意ではない」と主張しました。
しかし裁判所は、食品業者にはサプライヤー管理を含めた自主管理義務(同法第7条)があり、提供された書類の真偽を確認する責任があると述べました。積極的な隠蔽工作がなかったとしても重大な過失があるものとして、密輸取締条例に基づく罰則を免れることはできないとの判断を示しました。
これらの判例から、台湾において「知らなかった」「悪気はなかった」という弁明は、行政処分や過料の場面ではほとんど効果を持たないことがわかります。輸入業者は製品の安全性を最終的に保証する門番としての重い法的責任を負っています。
台湾における違反時の行政罰
食品安全衛生管理法に基づく過料の額は、違反の回数や事案の性質に応じて段階的に引き上げられます。一般的な表示違反(第22条違反)は3万台湾ドル以上300万台湾ドル以下の過料です。初犯であれば比較的低額な場合もありますが、不適正な製品の回収と改善が完了するまで繰り返し科されることがあります。
不実・誇張・誤解を招く表示(第28条第1項違反)は4万台湾ドル以上400万台湾ドル以下の過料となります。医療的効能の宣伝(第28条第2項違反)は60万台湾ドル以上500万台湾ドル以下と非常に高額であり、一度の違反で数千万円規模の負担となる可能性があります。
衛生福利部は罰鍰裁罰標準を策定しており、故意の有無、被害の範囲、不当な利益の額などを考慮して罰金額が決定されます。重大な食品安全事案とみなされた場合、業者の実名公表だけでなく、会社登記の抹消や食品業者登録の廃止といったビジネス停止処分が下されることもあります。
台湾進出における実務的なリスクヘッジ
日本企業が台湾で食品ビジネスを展開する際に取るべき具体的なリスクヘッジ策を整理します。第一に、現地パートナー(輸入代理店)との責任分担を明確にすることです。中文ラベルの作成や非登不可の登録は現地代理店が行うことが多いですが、内容が不適切であった場合、台湾法上は輸入業者(国内責任業者)が第一義的な責任を負います。日本側としても自社ブランドが台湾で法令違反として公表されることは避けるべきであり、ラベル案や添加物の適合性について契約段階でリーガルチェックを行うプロセスを組み込むべきでしょう。
第二に、サンプルの事前分析です。台湾への本格的な輸出開始前に、TFDAが認定する民間検査機関に現物サンプルを送り、残留農薬や添加物、栄養成分の分析を依頼することが推奨されます。通関時に予期せぬ不合格判定を受けるリスクを最小限に抑えることができます。
第三に、広告表現の厳格な管理です。日本語のウェブサイトやSNS広告であっても、台湾の消費者を対象としていると見なされる場合、台湾の広告規制が適用される可能性があります。「日本で人気の健康食品」といった見せ方をする場合、台湾の健康食品管理法に基づく認証を取得していない限り機能性を謳うことはできません。
まとめ
台湾における食品輸入規制は、食品安全衛生管理法を頂点とした極めて精緻かつ厳格な体系を持っています。日本企業が成功を収めるためには、単なる品質の追求を超えた高度な法的コンプライアンスが求められます。2025年の規制撤廃によって日本特有の障壁はなくなりました。しかし非登不可への登録義務、2ミリメートル以上のフォントサイズを求める中文ラベル表示、ポジティブリストに基づく添加物管理といった台湾国内の一般的な規制の重要性は相対的に高まっています。特に中文ラベルの上貼りについては、日本語の原文が持つニュアンスが台湾の広告規制に抵触しないか、言語と法律を跨いだ慎重な検討が欠かせません。
モノリス法律事務所は、ITおよびビジネス法務の深い知見に加え、台湾の弁護士資格を保有する外国人弁護士が所属しているという強みを活かし、現地法令に完全に対応したアドバイスを提供しております。また当事務所は台湾の椽智商務科技法律事務所と密接に連携しており、現地での法人設立、ビザ取得、許認可の申請から、行政処分に対する不服申し立てや訴訟対応まで、台湾国内での稼働が必要なあらゆる業務を一気通貫でサポートすることが可能です。台湾でのビジネス展開を検討、あるいは既に展開されている企業の皆様が、予期せぬ法的リスクを回避し、台湾の消費者に安全で高品質な日本食を届けるためのパートナーとして、当事務所の専門性をご活用ください。
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