台湾での解雇はなぜ難しい?労働基準法第11条・12条の徹底解説

台湾での解雇はなぜ難しい?労働基準法第11条・12条の徹底解説

多くの日本企業がグローバル展開を加速させる中で、台湾は親日的な土壌や地理的な近接性から、依然として重要なビジネス拠点としての地位を確立しています。しかし現地法人設立や駐在員事務所の運営において、多くの経営者が直面し頭を悩ませるのが人事労務、とりわけ従業員の解雇に関する法的ハードルの高さです。「海外であれば、日本のような厳しい解雇規制はなく、より柔軟な人員整理が可能ではないか」という期待は、台湾においては明確な誤りと言わざるを得ません。

台湾の労働法制、特にその中核をなす労働基準法は、解雇事由を具体的に列挙しその適用を厳格に制限する法定列挙主義を採用しています。米国のような随意雇用の原則は存在せず、また日本法における解雇権濫用法理とも異なる、形式的かつ厳格な手続きが求められます。特に日本企業が注意すべき点は、解雇が法的に予告解雇(整理解雇・普通解雇)と懲戒解雇に明確に二分されていることです。それぞれに求められる要件、金銭的義務、そして権利行使の期間制限が全く異なります。

本記事では、台湾労働基準法における解雇規制の全貌を条文の構造から最新の判例法理、実務上の運用に至るまで徹底的に解説します。

台湾労働法制における解雇規制の全体構造

台湾において労働関係を規律する基本法は労働基準法です。日本の労働法では、解雇の有効性は労働契約法に基づく解雇権濫用法理によって、客観的合理性と社会通念上の相当性という一般条項で判断されます。対して台湾では、労働基準法第11条または第12条に列挙された具体的な事由に該当しない限り、使用者は一方的に労働契約を終了できないという解雇の法定事由主義が採用されています。

したがって台湾での解雇を検討する際は、対象となる事案が第11条のケースなのか第12条のケースなのかを法的観点から峻別することが全ての出発点となります。

予告解雇(資遣)と懲戒解雇(開除)の違い

予告解雇は労働基準法第11条に基づくもので、経済的理由または能力不足による解雇です。予告期間が必要であり、または予告手当を支払う必要があります。資遣費(解雇手当)の支払い義務もあります。主な適用ケースは経営不振、事業縮小、M&A、能力不足、身体的理由による業務不能などです。

懲戒解雇は労働基準法第12条に基づくもので、重大な規律違反による制裁的解雇です。予告期間は不要で即時解雇が可能です。資遣費の支払い義務はありません。主な適用ケースは経歴詐称、暴力行為、重大な背任行為、無断欠勤(3日以上)などです。

この判断を誤り、本来第11条で処理すべき事案を第12条で処理しようとすれば、不当解雇として訴訟リスクを招きます。多額のバックペイ(解雇期間中の賃金)を支払うことになります。逆に第12条の事案を安易に第11条で処理すれば、不要なコストを支払うことになり経営上の損失となります。

台湾労働基準法第11条:整理解雇・能力不足解雇の厳格な要件

台湾労働基準法第11条:整理解雇・能力不足解雇の厳格な要件

労働基準法第11条は、使用者が予告期間を設けかつ資遣費を支払うことで労働契約を終了できる事由を5つに限定しています。条文には「以下の各号の一に該当する場合でなければ、使用者は予告して労働契約を終了することはできない」と明記されています。これ以外の理由による解雇は認められません。

第1号から第4号まではいわゆる整理解雇(リストラ)に関連する項目です。事業の休止または譲渡(第1号)、損失または業務の縮小(第2号)、不可抗力による1ヶ月以上の操業停止(第3号)、そして業務性質の変更と配置転換の不可能性(第4号)がこれに該当します。

特に日本企業が注意すべきは第2号の「損失」です。これは一時的な赤字ではなく、財務諸表上の赤字がある程度の期間継続していることが求められます。また第4号における配置転換の不可能性は解雇回避努力義務を条文化したものです。単にポストがないと主張するだけでなく、実際に他の部署への打診を行った記録が求められます。

能力不足解雇の厳格な要件

日系企業において最も頻繁に問題となり、かつ法的紛争に発展しやすいのが第5号「労働者の業務遂行能力不足」です。「確不能勝任(確かにその任務に堪えない)」という要件は非常に重く解釈されます。最高法院の判例法理によれば、ここには客観的な能力不足(知識・技能の欠如)だけでなく、主観的な意欲不足(能力はあるが怠慢である)も含まれます。しかし単に期待した成果が出ないという理由だけで即座に解雇することはできません

近年の重要な判例である最高法院109年度台上字第1516号(2020年8月13日判決)は、能力不足解雇のハードルの高さを示しています。この事案では金融機関の従業員がKPI未達や事務ミスを理由に解雇されましたが、最高法院は解雇を無効と判断しました。裁判所は解雇が有効とされるためには、労働者の能力不足により使用者の経済的目的が達成できないことに加え、使用者が教育訓練、業務改善計画(PIP)、指導、配置転換などあらゆる手段を講じたにもかかわらずなお改善が見込めないことが必要であるとしました。

つまり具体的な目標設定、定期的なフィードバック、改善の機会付与といったプロセスを経ずに結果のみをもって解雇することは、解雇の最後手段性に反するとみなされます。

台湾労働基準法第12条:懲戒解雇の即時性と30日の壁

労働基準法第12条は、使用者が予告期間を置かず、かつ資遣費も支払わずに即時に労働契約を終了できる懲戒解雇の事由を定めています。対象となるのは採用時の経歴詐称、暴力行為、有期徒刑以上の刑の確定、故意による損害・機密漏洩、そして無断欠勤(連続3日または月間6日)などです。

実務上最も争点となるのが第4号「労働契約または就業規則の重大な違反」です。情節重大(情状が重大である)か否かが判断の分かれ目となります。最高法院104年度台上字第1227号民事判決はこの重大性の判断において重要な基準を示しました。この判決では実際に具体的な金銭的損害が発生していなくとも、事業に対して相当な危険を生じさせた、あるいは労使間の信頼関係を完全に破壊したといえる場合には情節重大と認定しうるとされました。

たとえばIT企業の管理職が機密データを個人のPCに無断でダウンロードした事案や、勤怠の不正打刻、少額であっても会社の備品を私的流用した事案などがこれに該当します。

30日の除斥期間という落とし穴

第12条の適用において日本企業が最も陥りやすい罠が除斥期間です。労働基準法第12条第2項は「使用者が契約を解除する場合は、その事情を知った日から30日以内に行わなければならない」と定めています(刑の確定による解雇を除く)。どんなに重大な不正行為があっても、会社がそれを知ってから30日を過ぎてしまえばもはや懲戒解雇することはできません。「知った日」とは調査手続きを経て違反事実が客観的に確実となった日を指しますが、調査を不当に引き延ばすことは許されません。

日本本社への稟議に時間をかけすぎ、30日を超過して解雇が無効となるケースは後を絶ちません。台湾での不正調査と処分決定には極めて迅速なスピード感が求められます。

台湾における金銭的解決のメカニズム:資遣費と予告期間

台湾における金銭的解決のメカニズム:資遣費と予告期間

第11条に基づく解雇を行う場合、使用者は資遣費(解雇手当)を支払う義務があります。この計算方法は労働者が適用されている退職金制度によって異なります。現在は2005年7月以降に入社したほとんどの従業員が新制(労働者退職金条例)の対象です。しかしそれ以前からのベテラン従業員は旧制が適用される場合があり、計算式が大きく異なるため注意が必要です。

旧制は2005年6月以前入社で旧制を選択した者に適用されます。計算式は勤続1年につき平均賃金の1ヶ月分であり、支給上限はありません。根拠法令は労基法第17条です。新制は2005年7月以降入社または新制選択者に適用されます。計算式は勤続1年につき平均賃金の0.5ヶ月分であり、支給上限は最高6ヶ月分です。根拠法令は労退条例第12条です。

たとえば月給10万台湾ドルで勤続20年の従業員を解雇する場合、旧制であれば「10万元×20年=200万元」となります。新制であれば上限が適用され「10万元×6ヶ月=60万元」となります。この差額は極めて大きいため、解雇コストの試算には制度の確認が不可欠です。

解雇予告期間と手当

解雇にあたっては勤続年数に応じた予告期間が必要です。勤続3ヶ月以上1年未満の場合は10日前、1年以上3年未満の場合は20日前、3年以上の場合は30日前の予告が必要です。予告期間を短縮したい場合はその日数分の賃金(予告手当)を支払うことで即時解雇が可能となります。なお予告期間中、労働者は週に最大2日間、給与が支払われる求職休暇を取得する権利を有します。

台湾における実務的プロセスとリスク管理

法令を遵守した解雇であっても、手続きに不備があれば違法となるリスクがあります。特に第11条による解雇を行う際は、従業員が離職する10日前までに管轄の労働局等へ通報する資遣通報が義務付けられています。これを怠ると罰金が科されます。

また解雇された従業員が失業給付を申請するための非自発的離職証明書の発行も義務です。さらに第12条(懲戒解雇)を適用する前提として、就業規則が適法に作成・届出され従業員に周知されていることが不可欠です。日本の就業規則をそのまま翻訳して使用することは危険であり、現地の法令に適合した規定を整備しておくことが万が一の際の防御壁となります。

まとめ

台湾における解雇規制は、労働基準法第11条(資遣)と第12条(開除)という二つの厳格な枠組みによって規律されています。第11条に基づく解雇では法定の事由に該当することに加え、資遣費の支払いが義務付けられています。特に能力不足解雇においては解雇回避努力の立証が厳しく求められます。一方、第12条に基づく懲戒解雇は即時性が認められる反面、重大な違反の認定や30日以内という極めて短い権利行使期間の制約があります。迅速かつ正確な初動対応が不可欠です。

日本的な曖昧な運用は、台湾の労働法務においては最大のリスク要因となります。法に基づいた就業規則の整備、客観的な評価制度の運用、そして有事の際の適法な手続きこそが台湾事業を守る鍵となります。モノリス法律事務所はIT・クロスボーダー法務に高度な専門性を有しており、台湾弁護士資格を持つスタッフと現地の専門家チームを擁しています。また提携する椽智商務科技法律事務所との緊密な連携により、法人登記、ビザ取得、許認可申請から複雑な労務訴訟対応に至るまで、台湾ビジネスに必要なあらゆる法的サポートをワンストップで提供できる体制を整えています。

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