Web3・NFTビジネスを台湾で展開する法的留意点
世界的なWeb3の潮流の中で、台湾はアジアにおける重要なハブとして存在感を高めています。地理的な近接性に加え、高度なITインフラと柔軟なデジタルエコノミーを背景に、日本のWeb3企業にとって魅力的な進出先です。NFTプロジェクトやブロックチェーンゲーム事業者には、親日的な文化基盤と購買力の高いユーザー層が大きな利点となります。
日本国内では資金決済法や金融商品取引法により規制が明確化されましたが、厳格なコンプライアンスコストがイノベーションの足かせとなる側面もあります。台湾の規制環境は「イノベーション優先」から「規律ある発展」へと急速に舵を切りつつあります。2024年から2026年にかけての法整備のスピードは著しく、「台湾は規制が緩い」というイメージのまま進出することは致命的な法的リスクを招きます。
本稿では、台湾進出を検討する日本企業の経営者や法務担当者に向けて、現地の最新法令に基づいた実務的な解説を行います。日本法との構造的な違いである「法的非対称性」に焦点を当て、STOの証券性判断、NFTにおける消費者保護、そして厳罰化されたVASP規制について詳述します。
目次
台湾における規制環境の変遷と現在地
台湾のWeb3規制を理解するには、その法的な進化のプロセスを把握する必要があります。日本の規制が資金決済法と金融商品取引法という二大支柱で構成されているのに対し、台湾の規制はより流動的かつ段階的に発展してきました。
これまで台湾における暗号資産規制は、金融監督管理委員会(FSC)による指導原則や業界団体による自律規制に大きく依存していました。しかしFTX事件等の国際的な破綻事例や国内での詐欺被害の増加を受け、台湾政府は明確にハードローによる規制へと方針転換しました。以下の表は、その変遷を日本との比較において整理したものです。
| フェーズ | 時期 | 規制の性質 | 日本との比較 |
| 第1フェーズ | 〜2021年 | 放任・警告 | 法的定義が曖昧で、主に投資家への注意喚起にとどまる段階でした。日本の2016年以前(マウントゴックス事件後)に近い状態といえます。 |
| 第2フェーズ | 2021年〜2023年 | AML(マネロン対策)中心 | マネーロンダリング防止法に基づき、VASPにコンプライアンス宣言を要求しましたが、登録自体は必須ではありませんでした。日本の改正資金決済法(2017年)に近いものの、より緩やかな運用でした。 |
| 第3フェーズ | 2024年〜 | 厳罰化・登録制 | 改正マネロン防止法が施行され、未登録営業に刑事罰が導入されました。現在の日本の交換業登録制度と同等の厳しさへと移行しました。 |
| 第4フェーズ | 2025年〜 | 業法・ライセンス制 | 仮想資産管理条例の制定により、金融業としての包括的監督体制が構築されつつあります。金商法と資金決済法を統合したような専用法による管理体制です。 |
日本企業が台湾でビジネスを行う場合、日本の外為法や資金決済法に加えて台湾の現地法の適用も受けます。台湾の規制当局が域外適用に対して積極的な姿勢を見せている点には注意が必要です。
日本にサーバーを置き、日本法に基づいて運営しているサービスでも、台湾の居住者を対象に台湾ドルでの決済を提供したり、繁体字中国語でのマーケティングを行ったりしている場合、台湾の法律上「台湾国内での営業」とみなされます。無登録営業として摘発されるリスクがあるため注意が必要です。
台湾におけるVASP規制とAML対応の厳罰化

2024年11月30日に施行された改正マネーロンダリング防止法は、台湾市場への参入障壁を劇的に高めました。これまで台湾で暗号資産交換業などを営む事業者は、FSCに対してマネーロンダリング防止法令遵循声明を提出すれば営業が可能であり、実質的な届出制に近い運用がなされていました。改正法によりこの手続きは正式な登録制度へと格上げされ、未登録営業に対する刑事罰が導入されました。
登録を行わずに営業した自然人(個人事業主・代表者等)に対しては2年以下の有期懲役、拘留、または500万台湾ドル以下の罰金が科され、法人に対してはより重い5,000万台湾ドル以下の罰金が別途科される可能性があります。日本企業にとって「知らなかった」では済まされない重篤なリスクであり、特に法人への制裁が個人の10倍に達するこの罰則体系は、コンプライアンスの徹底が求められることを強く示しています。
台湾におけるVASP(仮想資産サービス提供者)の定義は、FATFのガイダンスに準拠しており、日本の資金決済法における暗号資産交換業よりも広範に解釈される傾向があります。規制対象となる業務には、仮想資産と法定通貨の交換、仮想資産同士の交換、移転サービス、カストディ(保管・管理)、そして発行・販売(ICO/IEO)に関する金融サービスの提供が含まれます。
カストディアン(保管業務)の範囲については、日本法との違いを踏まえて慎重に検討する必要があります。日本では、秘密鍵を事業者が管理しないノンカストディアル型ウォレットは、原則として暗号資産交換業の規制対象外と整理されることが多いとされています。他方、台湾においては、カストディに関する明確な法令上の定義は必ずしも確立しておらず、金融監督管理委員会(FSC)のガイドラインや実務解釈に委ねられている部分が大きいのが実情です。
そのため、形式的に秘密鍵を保持していない場合であっても、サービスの設計や運用次第では、利用者資産に対して実質的な影響力や管理可能性を有すると評価される余地があります。特に、スマートコントラクトやプラットフォームを通じて資産の移転や処分に関与できる仕組みを提供している場合には、規制対象とみなされるリスクがあるため、個別具体的なスキームに応じた慎重な法的評価が求められます。
マネーロンダリング対策の一環として、送金元の取引所が送金先の取引所に顧客情報を通知するトラベルルールが義務付けられています。台湾では30,000台湾ドル相当額以上の送金が対象です。閾値自体は日本と近い水準ですが、実務上は送金元と送金先のVASP間での情報共有プロトコルの互換性が強く求められます。使用しているトラベルルール対応ソリューションが異なると送金が拒否される事例が発生しており、現地の取引所との接続性を事前に確認することが不可欠です。
2025年に公表された仮想資産管理条例草案では、これまでのAML特化型の規制から、事業の健全性を監督する業法への進化が示されています。この新法案では、交換業者、取引プラットフォーム、移転業者、保管業者、引受業者、貸付業者という6つのライセンス区分が検討され、顧客資産と自己資産の分別管理義務や、ステーブルコイン発行者に対する厳格な準備資産要件などが盛り込まれています。
台湾におけるセキュリティ・トークン(STO)の証券性判断
Web3ビジネスにおいて、独自トークンの発行は資金調達およびエコノミーシステム構築の核となります。そのトークンが有価証券とみなされた場合、重い規制が課されます。台湾の金融監督管理委員会は2019年の令釈により、STOを証券取引法上の規制対象としました。その判断基準は米国の最高裁判例に基づくHowey Testの影響を強く受けており、出資、共同事業、利益の期待、他者の努力という4要件を満たすものが証券型トークンと認定されます。
この定義自体は、日本の金融商品取引法における集団投資スキーム持分や電子記録移転権利の概念と大差ありません。最大の問題はその後の発行プロセスにおける「3,000万台湾ドルの壁」にあります。以下の表で日本法との違いを比較します。
| 比較項目 | 日本 | 台湾 |
| 法的枠組み | 金融商品取引法(電子記録移転権利) | 証券取引法 + サンドボックス条例 |
| 発行上限 | 特になし(開示規制のレベルが変わるのみ) | 3,000万台湾ドル超はサンドボックス必須 |
| 公募の可否 | 第一種金商業者を通じ、届出を行えば一般投資家への公募が可能 | 一般投資家への販売は極めて困難(専門投資家中心) |
| 実務的ハードル | コンプライアンスコストは高いが、道筋は明確 | サンドボックス審査に長期間を要し、予見可能性が低い |
台湾のSTO規制では、資金調達額が3,000万台湾ドル以下の場合、既存のSTOに関する枠組みに基づき、比較的簡易な手続での発行が認められるとされていますが、投資家の範囲や取引方法には一定の制限が課されるのが一般的です。他方、3,000万台湾ドルを超える案件については、従来の枠組みの外で個別の審査が必要となり、金融規制サンドボックスの活用を含めた対応が検討されることになりますが、その適用や審査プロセスについては必ずしも明確な運用が確立しているわけではありません。
このように、日本と比較すると、台湾では発行規模や制度運用の不確実性が実務上の制約となる可能性があります。日本では不動産STOなどで大規模な公募事例が蓄積されている一方、台湾では制度上・運用上のハードルから、大規模案件の組成には慎重な検討が求められます。日本企業が台湾でトークンを発行する場合には、トークン設計を通じて証券該当性を回避するか、発行規模や投資家属性を踏まえたスキーム設計を行う、あるいは日本法に基づく発行とし台湾居住者への販売方法を制限するなど、複数の選択肢を比較検討することが重要です。
台湾におけるNFTの法的性質と消費者保護

NFTはアートやゲームアイテムとして日本企業が最も参入しやすい分野ですが、台湾の消費者保護法には日本企業が盲点としやすい規定が存在します。
まずNFTの法的性質についてですが、2025年の仮想資産管理条例草案や関連する指導原則において、決済機能や分割化(証券性)を持たない純粋なデジタルアートやゲーム内アイテムとしてのNFTは、原則としてVASP規制の対象外となる方向で調整されています。一般的なNFTプロジェクトであれば、前述の厳格なVASP登録やAML義務は免除される可能性が高いといえます。
その代わりに適用されるのが消費者保護法です。日本の特定商取引法では、事業者が返品不可と明記していれば原則として消費者の都合による返品を拒否できます。しかし台湾の消費者保護法第19条第1項は、通信販売において消費者は商品到着後7日以内であれば、理由を問わず無条件で契約を解除できる権利、いわゆる7日間強制返品権を認めています。これは強行法規であり、利用規約にNo Refundと記載しても、法律の要件を満たさない限り無効となります。
デジタルデータであるNFTは、一度購入してしまえばコピーが可能であったり、鑑賞価値を享受し終えていたりするため、無条件の返品を認めればビジネスが成り立ちません。この不都合を解消するため、台湾行政院は通信取引解除権の合理的例外情勢適用準則を制定しており、以下の3つの要件を全て満たすことで、デジタルコンテンツを7日間の解除権の対象外とすることができます。
- 対象が有体物を媒介としないデジタルコンテンツ、または提供により完了するオンラインサービスであること。
- 事業者が消費者に、解除権が排除されることを事前に告知すること。
- 消費者がその告知内容に同意して提供が開始されること。
実務上最も重要なのは、3点目の同意の取得方法です。単に利用規約に記載するだけでは不十分であり、台湾の裁判例や行政指導では消費者の能動的な同意が求められます。
購入確定画面において「本商品はデジタルコンテンツであり、購入完了と同時に提供が開始されます。消費者保護法に基づき、7日間の解除権の対象外となることに同意します」といった文言を表示し、その横にチェックボックスを設置する必要があります。このチェックボックスはデフォルトで空欄にしておき、ユーザー自身がクリックしない限り購入できない仕様にすることが推奨されます。
NFTゲームにおけるガチャ機能については、賭博罪のリスクも考慮する必要があります。日本と同様に、ゲーム内で獲得したNFTやトークンを公式または公認の流通市場を通じて容易に法定通貨に換金できる仕組み(RMT)が存在する場合、そのゲームは娯楽ではなく賭博とみなされるリスクが高まります。換金性の分断や排出率の明示といった対策は、台湾市場においても不可欠です。
日本企業のための実践的戦略
これまでの法的分析を踏まえ、日本企業が台湾でWeb3ビジネスを展開するための実践的な戦略を検討します。進出形態としては、クロスボーダーでの直接提供、現地法人の設立、現地パートナーとの提携という3つの選択肢が考えられます。日本から直接サービスを提供するクロスボーダー方式はコストを抑えられますが、改正マネロン防止法により無登録での営業が刑事罰の対象となるため、VASPに該当するビジネスを行う場合は違法となるリスクが高く、推奨されません。本格的な展開を目指すのであれば、現地法人を設立し、正規のVASP登録を行うことが最も確実です。市場知見を得るために、ライセンスを持つ現地パートナーと提携するのも有効な戦略です。
法的なチェックポイントとしては、まず自社のビジネスモデルがVASP規制やSTO規制に抵触しないかを精査する必要があります。現地法人を設立する場合はFSCへの法令遵守声明または登録申請を行い、銀行口座を開設するというプロセスを経ます。サービス実装段階では、利用規約の台湾法準拠化に加え、NFT販売画面への同意チェックボックスの実装やトラベルルール対応ソリューションの導入など、UI/UXレベルでの法令対応が求められます。
台湾は現在、銀行による仮想資産カストディ業務の試験運用を開始するなど、伝統的金融機関とWeb3の融合を積極的に進めています。将来的には、日本で発行されたステーブルコインが台湾で流通したり、台湾のプロジェクトが日本で上場したりといったクロスボーダーな連携が期待されます。日台間の規制のズレを正確に理解し、両方の基準を満たす高度なコンプライアンス体制を構築することが、先行者利益を得るための鍵となります。
まとめ
台湾のWeb3市場は、もはや規制の空白地帯ではありません。日本と同様、あるいはそれ以上に厳格なマネーロンダリング対策と消費者保護が求められる成熟した市場へと移行しつつあります。無登録営業への刑事罰とNFTの7日間返品ルールは、日本企業の常識が通用しない危険な法的課題です。しかしこれらの要件さえクリアすれば、台湾は日本にとって最も親和性の高い、巨大な市場であり続けます。
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河瀬 季
Toki Kawase
IT企業経営の経験を持つエンジニア出身の弁護士。東大院修了後、モノリス法律事務所を開設。上場企業からスタートアップまで顧問弁護士やCLOとして経営を支援する。特に台湾法務に精通し、専門チームを率いて現地法人設立から労務、知財戦略分野で日本企業の台湾進出を多角的にサポートしている。
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